株主還元に消極的な日本企業
藤吉:裏を返せば、日本の経営者に株とか株主のことを軽視しがちな傾向があるということでしょうか。阿部:「企業が公に供する」とはどういうことかといえば、まず税金を払うことですよね。それから、いいものを作って顧客に喜んでもらうこと。社員が働く場を提供して、報酬を払うこともそうですね。つまり「お客様は神様、従業員は家族」というここまでの感覚は日本の経営者にもあるんです。
藤吉:そうですね。
阿部:じゃあ「株主」はどうなのか。本来、株主もまた顧客や従業員と同じ企業にとっての"ステークホルダー(利害関係者)"のはずなんですが、日本の企業経営においてはずっと株主が劣後してきたことも事実だと思います。
藤吉:日本企業は、利益を株主に還元するよりも、利益をためこんで財務状況を改善することに血道をあげてきた面もありますよね。
阿部:そうです。その結果として、この30年は経済成長という面では停滞した。一方で財務だけはよくなったので、ここに来て海外のアクティビストに日本企業が狙われるようになった。
アクティビストに買い叩かれないための防衛策
藤吉:アクティビストに安く買い叩かれないために、日本企業ができる防衛策というのは何かあるんでしょうか?阿部:それは本当に難しい。要は企業価値を上げていくということですが、そう簡単じゃないですよね。とはいえ、一番わかりやすいのは、株主還元を適正にすることだと思います。経営者にできる株主還元というのは2つあって、ひとつは配当を出すということ。もう一つは自社株買いです。自社株を買って消却すれば、市場に流通する株が減るので株価は上がりますし、一株あたりの利益も増える。
藤吉:既存株主にとってはメリットになるんですね。ただ、これまでの日本企業はあまりやってこなかった?
阿部:それがよく分かるチャートがあります。これは2017年から2023年にかけて日米の自社株買い比率と配当性向の推移を示したものです。これを見れば、アメリカの企業が日本に比べると過剰なまでに株主還元をしているのがわかります。配当性向ではそれほど差はありませんが、自社株買い比率ではアメリカは日本の2倍から3倍に達してます。

藤吉:日本では自社株買いが株主還元になるという発想があまりないかもしれませんね。
阿部:そうなんですよ。自分の会社の株を買って、それを消却するって、そのお金はどこ行ったの? という話になるのは、僕も心情的によく分かります。例えばスパークスは2000年代前半に自転車メーカーで有名なシマノの筆頭株主だったんですね。創業者の島野社長がやりたがっていたのが、まさに自社株買いでした。僕も「ぜひやるべきです」と助言したのだけど、毎回、取締役会で反対されるわけです。結局、我々の助言もあってシマノは大量の自社株買いに踏み切って、ROEを大幅に改善しました。