ワイズマンとウィークマン
藤吉:アメリカの場合は、株主還元を手厚くしたことが、現在の史上空前の高値に繋がっているわけですか?阿部:株主還元をするだけではダメですけど、ROE(自己資本利益率)の分母は自己資本ですよね。だから自己資本をため込まずに株主に還元した方が、ROEは高くなる。投資家の目がアメリカ株の高いROEに引き寄せられた面はあると思います。
藤吉:なるほど。
阿部:ただ、アメリカはアメリカで極端ですよね。というのも自己資本を減らせば、運転資金は借り入れに頼らざるを得ない。これまでは、過去30年のGDPの平均成長率が4.7%というアメリカの異常な成長のおかげであまり問題にならなかったけど、今後、インフレで金利が上がっていけば、苦しくなってくると思う。
藤吉:しかもその異常な経済成長の恩恵を最も受けたのは、”マグニフィセント・セブン(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft、Tesla、NVIDIA)”に象徴されるごく一握りの企業ですよね。
阿部:まさにそこなんですよ。マグニフィセント・セブンだけでアメリカ株全体の時価総額の35%弱を占めているわけです。この7社の時価総額が約17兆ドル、つまり約2800兆円ですが、日本のGDPって約600兆円なんですよ。単純にいえば、この7社の中に日本が丸ごと4つ以上スッポリ入ってしまうということですよね。
藤吉:阿部さんの理論では「極端な富の偏在は歴史を動かす原動力になる」ですよね。だとすると、こうした歪な状況は、今後どこかで是正される可能性が高い、と?
阿部:僕はそう思っています。アダム・スミスは『道徳感情論』において、人間には一定以上所得が増えても幸福度は増大しないことを知っている賢明な人(=ワイズマン)と、より多くの富や地位が幸福度の増大につながると考える弱い人(=ウィークマン)がいる、としています。
ウィークマンが経済成長を促すのも事実ですが、本当はワイズマンの存在がセットとなって健全な資本主義を形成する。ところが昨今では、このワイズマンの声がぜんぜん聞こえなくなってしまった。アダム・スミスといえば、『国富論』における"神の見えざる手"ばかりが注目されて、とくにアメリカではこれが金科玉条となりました。とにかく市場に任せておけばよいんだ、と。
藤吉:いわば「市場至上主義」 ですね。”ウィークマン”というのは、まさに一部の悪評高いアクティビストを指しているように思います。
阿部:もうそのやり方が限界を迎えていることは明らかです。これから世界的に新たな経済の秩序を作るうえでは、ワイズマンの存在が不可欠です。その役割を担うのは、富の偏在がもっとも少ない国、つまり日本じゃないか、と僕は思っているんです。


