藤吉:『フォーブス・ジャパン』で日本各地の革新的な中小企業を表彰する「スモール・ジャイアンツアワード」という企画をやっている関係で、今年9月から札幌市と提携することになったんです。それで札幌で元気のいい中小企業をいくつか見学させてもらったら、面白い会社ばかりでちょっと驚いたんです。そういえば阿部さんも札幌のご出身だったな、と思い出しまして……。
阿部:思い出していただいて光栄です(笑)。
藤吉:例えば見学した企業の中に「Vカット」と呼ばれる特殊な製法で紙箱を作る「モリタ」という会社がありまして。
ここは「日本で一番手に入りづらいチーズケーキ」とか「高級なカリフォルニアワイン」とか「エスコンフィールドのシーズンチケット」とか、様々な中身に合わせて、唯一無二の箱を作っている。この会社しかできないという高い技術力はもちろん、商品のコンセプトに合わせたデザインから手掛けていて、要は”箱で中味をブランディングする”という付加価値創造をやってるんですね。
阿部:なるほど。
藤吉:そういう経営のアイデアが面白いな、と。最近では千歳市に半導体のラピダスが進出することも大きな話題になっていますが、実は今、北海道って面白いんじゃないかと思うんです。
阿部:それはすごくタイムリーなトピックですよね。
牛の糞尿から消臭液を作る会社
藤吉:前回、ウォーレン・バフェットが投資する企業はどれも「深い堀」━━つまり、他の会社が真似できない技術やノウハウ━━を持っているという話がありましたよね。それで言うと、北海道の北見市に2023年のスモール・ジャイアンツで部門賞を獲得した「環境大善」という会社があるんですが、ここはまさにその「堀」を持っているんですよ。阿部:そこは、どんなことをやっている会社なんですか?
藤吉:牛の糞尿を独自技術で処理して、消臭液や土壌改良材を作っているんです。牛の糞尿という公害の元になりかねないものを原料にして、自然環境にいい循環をもたらす技術というのは、まさに「深い堀」だと思うんです。
ここの若い社長が非常にやり手で、その消臭剤を大々的に販売しているんですが、こういう経営者が地方からポンと出てくるのも北海道の面白いところですよね。
阿部:北見って冬はマイナス何十度になるところですからね。
藤吉:あとは十勝なんかも、日本を代表する大農業地帯として知られていますが、最近では宇宙関係のスタートアップ企業が集まっていますよね。十勝はもともと政府主導ではなく、静岡から移民してきた商人たちが民間の力でどんどん開拓した土地だそうです。
阿部:開拓者精神があるんでしょうね。土地の広さもさることながら、歴史的に「進取気鋭」の精神的土壌が北海道にはあるんですよ。今、札幌の人口が200万人近いけど、どの銀行、どの証券会社でも「札幌支店長」というのはエリートコースなんです。ここの支店長になると挨拶周りに行くんだけど、任期中に回り切れないほど顧客が多いそうです。それだけ起業とかスタートアップが盛んな土地柄と言えます。