ウォーレン・バフェットがバークシャー・ハサウェイのCEOとして臨んだ最後の年次株主総会で語った別れのメッセージは、今後の米国への楽観と愛国心に満ちたものだった。
現在94歳のバフェットは、バークシャーの取締役を務める自身の2人の子ども(ハワード・バフェットとスージー・バフェット)には事前に自身の退任を伝えていたが、後継者に指名した副会長のグレッグ・アベル(62)を含む他の取締役には、当日までその決定を伝えていなかったという。
彼が退任を発表したのは、米国時間5月3日にネブラスカ州オマハで開催されたバークシャーの年次株主総会での質疑応答セッションの終盤だった。この伝説的投資家は、約5時間に及んだ長丁場で、記憶力の衰えを見せずに数十年前の出来事を語り、巨大アリーナに集まった約4万人の観客に助言を行った。彼が繰り返し強調したのは、「今の米国ほど恵まれた国と時代はほかにない」ということだった。
「人生で最も幸運だったのは、米国に生まれたことだ」とバフェットは語った。「私がもしも今、母親の子宮の中にいたとしたら、最後まで粘りに粘って、私が米国に生まれることを確約してくれるまでは外に出てこないだろう」と彼は話したが、それと同時に愛する祖国への批判を忘れなかった。
最初の質問は、彼が2003年に提案した「輸入証明書」のアイデアと関税に関する見解だった。彼はトランプ政権の関税に反対する姿勢を明確にし、「貿易を武器にすべきではない」と語った。ただし「バランスのとれた貿易が世界にとって良いものだというのは、説得力のある議論だ」とも述べた。
バフェットがかつて提案した輸入証明書という制度は、米国の輸出業者に対して輸出額に相当する金額の証明書を発行し、それを輸入業者が米国への輸入のために購入することで、事実上の関税として機能するというものだった。
「これは奇抜な案ではあるが、今議論されているものよりはよほどましだ」とバフェットは語った。
彼は特定の政治家を批判することはなく、トランプの名前も出さなかった。バフェットは、過去にはバラク・オバマやヒラリー・クリントンなどの複数の民主党の大統領候補を支持していたが、2020年と2024年の大統領選では沈黙を貫いた。彼は、トランプを公に非難することはなかったが、自身と並ぶ他のセンチビリオネア(資産1000億ドル以上の富豪)のように、トランプにすり寄ることもなかった。
最大の懸念はインフレと通貨の弱体化
バフェットが、今後の米国について最も懸念しているのは、インフレの暴走と通貨の弱体化だ。彼によると、現状では政治家が票集めのために、巨額の公約を掲げることを抑止する仕組みが存在しないために、政府は時間とともに通貨の価値を下げてしまうことになるという。ただし、こうした傾向は米国に限ったことではなく、どの国にも共通する問題だと彼は強調した。