意外かもしれないが、さまざまな文明が始まる前から存在している樹木は珍しくない。ギリシャのクレタ島には、「ヴォーヴェスのオリーブ(olive tree of Vouves)」と呼ばれる、ごつごつと節くれだったオリーブの大木がある。およそ4000年にわたって人類を見守り、戦争が起ころうが、干ばつが襲おうが、アレキサンダー大王の帝国が崩壊しようが、ひたすら実をつけてきた。
イチョウ(学名:Ginkgo biloba)は、「生きた化石」とも呼ばれるほど生命力が強く、中国には樹齢1400年とされるイチョウの木もある。日本の広島には、原子爆弾が爆発して焼けこげたが、毎年春になると再び芽吹くイチョウもある。
しかし、米国カリフォルニア州には、クレタ島のオリーブやイチョウよりもずっと年老いた樹木が存在している。
カリフォルニア州の山脈ホワイトマウンテンズの標高約3000mという高地には、何千年ものあいだ風にさらされてねじれた形になったグレートベースン・ブリッスルコーンパイン(イガゴヨウマツ:学名:Pinus longaeva)が立っている。
「メトセラ」という名前がついたこのブリッスルコーンパインは、樹齢4800年を超えるとされる。クローン繁殖ではない(種から誕生した単体)として、樹齢が確認されているなかでは世界最長寿の樹木だ。
古代からの番人とも言えるこの古木は、エジプトのピラミッドが完成する前に誕生し、現在も生き続けている。
メトセラの位置は、ずっと秘密にされていた
メトセラの存在が初めて明らかになったのは、1953年夏のことだ。樹木の年輪年代を専門とする学者エドモンド・シュルマンが米国西部を調査中、カリフォルニア州東部に位置するホワイトマウンテンズに立ち寄ったときに、この驚くべき樹木を発見した。
シュルマンは長年、米国西部に存在する古木を調査してきた。アイダホ州からの帰途、高地の木立に、極めて稀なマツの古木があるという噂を調べてみようと考え、立ち寄ったとされている。
シュルマンは、乾燥した樹林帯のいちばん端で、このメトセラを見つけた。メトセラはまもなく、クローン繁殖ではない樹木として世界最長寿と確認された。