公共投資への依存度が高い北海道
藤吉:阿部さんは子どもの頃からずっと札幌ですか?阿部:そうです。僕が子どもの頃は札幌市の人口は75万人と教えられていたんです。それが今や約200万人ですから、2.5倍以上増えた計算になります。でも北海道全体では僕が子どもの頃が400万人ぐらいで、今は518万人ですから、そこまで増えてない。
藤吉:それだけ「札幌一極集中」が進んだんですね。
阿部:はい。それで、札幌というのは、極めて欧米的なサービスを消費する都市ですから、「ほとんどモノを作らない町」と言えます。
じゃあ、どこから収入を得ているかというと、一番は公共投資です。つまり政府による投資ですね。これは札幌だけでなく北海道全体の傾向ですが、他の地域と比べると圧倒的に政府依存が強い。
藤吉:公共投資というのは、インフラに対するものですか?
阿部:道路とか港湾とかインフラのあらゆるものですね。一方で日本の各地域のGDPに対して民間投資が占める割合を比べたのがこのチャートです。これを見れば分かるとおり、北海道は際立って民間投資が少ないんですよ。
藤吉:本当ですね。全国平均が16%ぐらいのところ、北海道は10%を割り込みそうな数字ですね。逆に中部は右肩上がりで20%近いですね。
阿部:中部の場合、トヨタのような会社があるから、圧倒的に高くなるんです。でも北海道にはそうやって投資を主導するような民間企業がないんです。これは僕が子どもの頃からずっと変わってません。これを何とかしないといけないというのが、北海道出身者としての僕の問題意識でもあるんです。
父親の経営する鉄工所が倒産
阿部:ここでちょっと僕のバックグラウンドをお話しておきます。うちの父は札幌で鉄工所を経営していました。ビルの鉄骨を作ったりしていて、高度経済成長の波にものって従業員も多い時は200人ぐらいいたのですが、僕が大学2年のときに倒産してしまうんですね。これがそのときの新聞記事で、1976年11月の日経なんですけど、きわめて不名誉ながら〈丸孝鉄工所が事実上の倒産 道内建設業では負債最大〉と書かれています。父の事業の細かいところまでは知りませんでしたが、創業時は母も事務として働いていたので、夜、家で両親が話す内容に「手形」という言葉が頻繁に出てきたのを覚えています。
父が悪戦苦闘しながら資金繰りに奔走する姿がやっぱり僕の北海道に対する思いの"原体験"
になっているんですよね。
藤吉:鉄工所を経営されているお父さまの姿を見て、何か影響を受けたり、阿部さんの今に繋がっている部分もあったりしますか?
阿部:それはものすごくあったと思いますね。幼稚園ぐらいの頃から「お父さん、何している人?」と訊かれたら、「うちのお父ちゃんは"だいひょうとりしまりやくしゃちょう"だよ」と言ってたくらいだから。だから「社長」になるもんだと思ってました。
藤吉:阿部さんご自身も?
阿部:そう。うちは3人兄弟なんですが、みんな独立しているんです。もし父が大企業のサラリーマンだったら、子どもたちも安定を選ぶというか、怖くて独立なんてできないと思う。とにかく独立することへの恐怖心は全然なかったですね。
藤吉:倒産の背景にはやっぱり建設業界の不振があったんですか。
阿部:直接的にはオイルショックの不況による資金繰りの悪化だと思います。ただ北海道は構造的に公共投資に依存していたから、少し景気が下向くと、すぐに資金繰りが苦しくなる。北海道というのは常にお金がない土地なんだな、というのは子どもの頃から肌感覚で感じてましたね。