株価のリアリティがない時代こそ着目すべき指標がある。「投資の巨人」バフェットとソロスの薫陶を受けた阿部修平(スパークス・アセット・マネジメント代表)が語る「市場を見る眼」。全12回の最終回は「企業価値経営」というべきスタンダードで新しい経営論について。
阿部:トランプ2.0の時代になって、アメリカは完全にモノを作らない国になったということを改めて感じています。モノづくりは外部に移管して、アップルとかアマゾンとか、マグニフィセントセブンと称されるシリコンバレーの企業群を中心に、株式市場における資産価値の上昇をテコにした繁栄。
こういう仕組みで世界の覇権を握った国は、人類の歴史上、アメリカが初めてでした。
藤吉:この30年あまりでアメリカの株価は17倍になっています。
阿部:いよいよ感じているのは株価にリアリティがなくなってきたということです。というのも、中国がだんだん豊かになって、かつてほど安くはモノを作れなくなった。アメリカにすれば、中国に替わって安価な労働力を提供してくれる国が必要なんですが、インドがその替わりになるかといえば、わざわざ中国からインドへとモノづくりを移管する必然性がほとんどない。アメリカの覇権のベースである市場の拡大に限界が生じてきたんですね。
藤吉:マグニフィセントセブンの一角、半導体大手のエヌビディアは従業員が3万人しかいないのに、時価総額が300兆円に達しています。
阿部:アメリカの一企業が日本のGDPの約半分を稼いでいるのは”リアリティがない”と僕は思います。「アメリカの株価は高くてもいい」という楽観と慢心によって辛うじて成り立っているレベルに来ているという警戒感は持つべきでしょう。
日本型「ソシオエコノミックモデル」の可能性
藤吉:アメリカ型の「市場至上主義」が限界を迎えつつある今、例えば阿部さんが前回お話された日本型「ソシオエコノミックモデル」は次代のモデルとなりうるんでしょうか。
阿部:僕が1989年にスパークスを創業したのは、日本が戦後復興から高度経済成長を経て、バブルが崩壊する直前というタイミングでした。当時、僕は「日本の経済的成功は、何によってもたらされたものなのか」を考えていたんです。その自分なりの回答が、日本独自の社会性を織り込んだ経済システム「ソシオエコノミックモデル」の存在です。