アシックスの買収戦略が面白い
藤吉:既存のモノを組み合わせるという意味では、アシックスが最近面白いことやっているんです。アシックスは3年前に「ランナーズ」という雑誌を出しているアールビーズという会社を買収したんですね。
それだけなら広告宣伝の一環かな、と思うんですが、この会社は雑誌だけじゃなくて、ランニング大会の予約システム(「RUNNET」)なども展開していて、実は1980年代から日本中のランナーのデータをずっと計測して蓄積しているんです。アシックスにすればそれは「宝の山」ですよね。
阿部:そのデータを活用して新たな研究開発に取り組むわけですか。
藤吉:そうなんですよ。先日、アシックスの富永(満之)社長に会ったときに、「いい会社を買収されましたね」と言ったら、「あそこは最高です。日本であれだけデータを持っている会社はありません」と仰ってたので、かなり戦略的にやっているんだな、と。
阿部:アシックスといえば、職人的な技術に強みがある老舗企業というイメージでしたが、やっぱり企業というのは、これまでやってきたことを守っているだけでは、成長していかないですからね。買収によって、新たな価値を作るというのは面白いですね。
藤吉:ただ高い技術力でブランドを築いてきた日本の企業が、めちゃくちゃ儲かっているかといえば、実際にはそうでもない。その結果、日本企業の株価は、海外から見ると異様に安くなっているのも事実です。
阿部:だから海外の投資家は今、みんな日本株を物色してますよ。
藤吉:中国政府と提携して日本の企業の調査をしている会社があるんです。そこの人に話を聞いたら、中国側から毎日のように買収案件の問い合わせがあるそうです。それも目薬とかせき止め薬で有名な会社の名前がポンポン出てくるそうです。いずれも日本人なら誰もが知っている大企業ですが、中国側からすると簡単に買える。そういう独自技術ごと、日本企業がゴソっと買われちゃうリスクはありますよね。