恐ろしげな評判を得ているにもかかわらず、ヘビとその生態は、昔から人間たちの熱い関心を集めてきた。人間は、ヘビをペットとして飼ってみたり、チャンスがあれば、動いているヘビをじっくり観察したりして、ヘビを身近なものにする方法を見つけてきた。
カナダのマニトバ州ナルシス村にある「ナルシス・スネーク・デンズ」では、数万匹のアカハラガーターヘビが一斉につがいになるのを見ようと、家族連れが木製デッキの上でひしめき合う。米国のコロラド州では、ガラガラヘビの「巨大な巣穴」でライブストリーミングが行われており、ファンたちを獲得している。とぐろを巻く母親ヘビたちの間を這い回る赤ちゃんヘビたちの生中継だ。チャットルームでは、「ウッドストック」「エージェント008」といったニックネームも付けられている。
しかし、ヘビが壮観な光景をつくるのは、ピクニックのテーブルや自撮りスポットがあるような場所ばかりではない。ブラジルには、ヘビが支配する島がある。毒ヘビが密集していることから、さすがのブラジル政府も、一般人がその島の海岸に足を踏み入れることを禁じている。
「スネークアイランド」と呼ばれるこの島は、サンパウロの沖合にあるケイマーダ・グランデ島だ。ここには、近絶滅種(CR)であるマムシ亜科のゴールデン・ランスヘッド(Bothrops insularis)が、推定2000~4000匹、生息している(2000匹近くにまで減っているとする研究もある)。ゴールデン・ランスヘッドの毒は、すぐに獲物が動けなくなるほど強力なもので、人間も重度の組織破壊を起こす。
島に入る許可は毎年、ひと握りの研究者にしか出されない。許可された研究者たちも、あまり本格的にはこの島に踏み入らないようにしている。

「時」に囚われた捕食者
ケイマーダ・グランデ島は、ずっと島だったわけではない。約1万1000年前には、ブラジル南東部の海岸線沿いの山だった。海面上昇で本土から切り離された結果、そこにすむ生物は、島内だけでやっていくしかなくなった。
マムシ亜科のあるヘビにとって、生活が元に戻ることは決してなかった。