阿部:だから僕はよく「日本の経営者はもっと自分の会社の株価を見た方がいい」と言っているんです。海外に丸ごと買われてしまうという危機感を持たないといけない。
その意味でも、トヨタ自動車が昨年12月にROE(自己資本利益率)の目標を20%にする、と宣言したのは、極めて特筆すべきアナウンスメントだったと思うんです。
藤吉:上場企業の平均ROEは9%ぐらいですから、20%はかなり高い目標です。具体的にはどうやってそれを達成するんでしょうか?
阿部:一般論としては、ROEというのは分母が株主資本で、分子が利益なんですが、日本の企業はROEがどんどん低くなっていく傾向にあるんです。例えば資本金100円の会社が、100円の利益を出したとしましょう。
すると日本企業は、平均するとそのうち30円ぐらいを株主配当に回して、残りの70円を内部留保に回すんです。資本つまり分母は170円になる。そうやってどんどん内部留保をため込んで、分母が大きくなっていくから、ROEは低くなっていく。そのかわり、財務内容は欧米の会社と比べて圧倒的によくなる。
藤吉:そうですよね。
阿部:これは上場企業の自己資本比率の推移を比較したチャートですが、ヨーロッパの33%、アメリカの36%に対して日本は43%です。とくに財務がいい会社だと70%とか80%も珍しくないし、中には90%を超えているところもある。要は借り入れゼロなわけですが、こうなると、もはや上場している意味がないんですよね。

藤吉:そうした体質はバブル崩壊のトラウマによるんですか。
阿部:そうですね。戦後しばらくの間は日本企業もむしろ過小資本でした。そこから高度経済成長を経てどんどん資本が増えていって、バブル崩壊に至る。今、企業のトップにいる人たちというのは、その過程を見ているから、ものすごく保守的な傾向があるんです。銀行からお金を借り入れることには消極的で、売上が伸びないから利益ものびない。