「企業価値を意識した経営」こそが市場の波をつかむ方法である

アメリカ企業が株主還元に積極的な理由

藤吉:本当は利益を内部留保でため込まずに、株主配当や自社株買いに回せば、ROEは上がっていくはずですよね?

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阿部:まさにそれをやっているのがアメリカです。こちらのチャートを見ていただくと、例えば2023年にアメリカ企業は平均で当期利益の46.8%を自社株買いで、34%を株主配当に回している。利益の80%以上を払い出してます。2020年に至っては自社株買いと株主配当合わせて116%、つまり当期利益以上に払い出している。

 

※日本はTOPIX、米国はS&P500を使用し計算 出所:FactSet Pacific、スパークス・アセット・マネジメント
※日本はTOPIX、米国はS&P500を使用し計算 出所:FactSet Pacific、スパークス・アセット・マネジメント

藤吉:アメリカ企業が利益以上に株主還元するのは、何か背景があるんですか。

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阿部:ひとつにはアメリカといえど、投資先がなくなってきた側面はあります。普通は利益が出たら、新たに工場を建てたり設備投資をすることを考えるわけですが、先ほども話した通り、今のアメリカはソフト偏重で”モノづくり”の基盤がない。だから、工場とかに投資する先もないんです。

有力な投資先がないときは利益は株主に還元する━━それがアメリカの市場主義における一種の「大義」なんですよね。アメリカの企業はROEをものすごく意識して「企業価値経営」をやっていると言えます。

藤吉:「企業価値経営」というのは、面白いですね。

阿部:先ほども言いましたが、現在のアメリカの覇権は株価が支えています。だからアメリカでは、株の資産価値をベースに個人の購買意欲を拡大させる経営者が評価される。利益が出たら自社株買いをしたり、配当性向を上げることで資本を減らして、ROEを上げる。究極的には利益が一定であれば、ROEは上がり続けることになります。

「市場の波をつかむ方法」とは

阿部:日本も配当性向は最近だいぶ伸びてきたけど、まだまだROEを意識している経営者は少ないと思います。

一方で、日本の経営者は利益を伸ばすことにはものすごく執着するんです。バブル崩壊以降、日本企業の売上はほぼフラットで伸びてないのに、利益は2.2倍になってます。どうしてそんなことが可能かといえば、コスト、とくに人件費を削り、設備投資や研究開発費も抑える。

徹底したコスト削減によって、デフレの逆風下で利益を伸ばしたんです。ただ、みんながそこに邁進した結果、いわば「合成の誤謬」(ミクロな視点では正しい行動が、マクロの世界で悪い結果をもたらすこと)が起きて、成長しづらい環境を自分たちで作り出してしまったともいえます。

藤吉:そうするとアメリカ企業は株価を意識しすぎて、日本企業は逆に意識しなさすぎて、それぞれ苦しくなったということでしょうか。

阿部:そう言ってもいいかもしれません。とくに日本では経営者も識者も、なぜか株価についてはほとんど語りませんよね。でも、本当は企業価値を高めて、社会にその価値を還元・分配するのが上場企業の経営者の社会的な責任なんですよ。

藤吉:この連載を通じて、株価というものが単なる「上がった、下がった」という投機の対象ではなく、社会的責任の象徴であり、国としての活力にも繋がることがよくわかりました。日本の経営者も株価に対する意識を変えないと、歴史も技術もある日本企業が軒並み海外勢に買われてしまう未来も、現実のものとなりかねません。

阿部:「市場の波をつかむ方法」とは、株価への意識を変化させることからだと思っています。

text by Hidenori Ito/ photograph by Kei Onaka

連載

市場の波をつかむ12の方法 スパークス代表・阿部修平×Forbes JAPAN 編集長・藤吉雅春

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