阿部:資本には2種類あると思うんです。ひとつは「産業資本」。つまり大企業のところに行って「御社の商売にも役に立ちますよ」と言って、お金を出してもらうことで、日本における資本調達といえば、ほぼこれですね。
けれど資本にはもうひとつ、「金融資本」というものもある。世界中に金融資本を運用している銀行だったり、年金基金があるわけです。
そこに対して「こうやって日本で世界最高品質の半導体を作るんです」というビジョンなりビジネス・モデルをプレゼンすることができれば、「だったら投資するよ」というところはたくさんあるはずなんですよ。実際、世界には、セブンイレブンを買うために7兆円投資しようとする企業があるわけですから。
藤吉:阿部さんご自身もスパークスを創業してから、そうやってお金を集めてきたわけですよね。
阿部:お金というのは本来、非常に臆病なんです。一方で、投資家というのは、ちゃんとした先が見えるビジネスのモデルさえあれば、不確実なリスクは許容するんです。逆にそのモデルがないところには、絶対にお金は動いていかない。
藤吉:面白いですね。投資家にとって、不確実なことは許せるけど、将来を予想するためのモデルがないのはダメなんですね。
阿部:そうです。そしてこれからのビジネス・モデルは東京じゃなくて、アジアとか世界に出ていくことを前提としたものじゃないとダメだと思いますね。
藤吉:この間、アメリカに詳しい方と話していたら「トランプ政権というのは、日本にとってアジアに進出するチャンスなんじゃないか」と言うんですね。つまりトランプは中国との覇権争いには躍起になるだろうけど、他のアジアの国々にはほぼ関心がないんじゃないか、と。
阿部:そういう意味では僕もチャンスだと思います。やっぱり"トランプ2.0”政権の誕生というのは、人類にとって「新たな分断の時代」の始まりなんですよ。軍事でも経済でも米中の覇権争いが激化していくなかで、日本はどういう役割を果たしていくべきかを投資家としては考えなきゃいけない。
僕なりの結論は、これからの日本は、どちらの陣営にも加担せずにバランスをとることで、分断に与しないことが重要だと思います。分断の時代だろうと必要なモノというのは、両者ともあるわけですから、それを日本が供給していくということですね。
藤吉:具体的にはどういうモノでしょうか。
阿部:キーワードとしては、ひとつは環境。温暖化ガスなどの問題にどう対処していくか。それから日本、中国に顕著ですが人口減少にどう対処していくのか。こういう人類全体のこれからの共通課題を解決できるようなモノが誕生するとすれば、先ほど言った通り、生産基盤が残っている日本からになるんじゃないのかな。
藤吉:米中激突の分断の時代にあって、日本に新たな「モノづくり大国」としての役割が求められて、さらにそれを北海道が牽引していくようなことになれば、面白いですね。
阿部:可能性は大いにあると思います。そのためには世界に向けたモデルとビジョンを持つことです。実際に明治政府は北海道でそれをやってのけたわけで、そういう意味では、今また160年ぶりの変革の時代を迎えていると思います。