本当の「アクティビズム」について語ろう

PBR"1倍割れ"の企業が増えた日本

阿部:もうひとつ、このチャートが面白いのは80年代、つまりバブルの頃は、日本株の方がアメリカ株より割高だったんですよ。それをさらにわかりやすくしたのが、日米でそれぞれ全体の何%の会社がPBRで"1倍割れ"しているかを比較したこのチャートです。
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※日本:TOPIX500 2024年12月31日現在  出所:FactSet Pacific、スパークス・アセット・マネジメント

※日本:TOPIX500 2024年11月30日現在 出所:FactSet Pacific、スパークス・アセット・マネジメント

これを見ると、日本の場合、1980年の時点でPBR"1倍割れ"の会社の割合は全体の20%弱ですが、これが2024年になると40%近くに達しています。それだけ割安な会社が増えたわけです。

藤吉:なるほど。

阿部:アメリカは逆です。80年代当時、PBR"1倍割れ"の企業が全体の40%を超えていました。クラビスやバフェットのように後に伝説の投資家と呼ばれる人たちは、この時代に果敢にアメリカ株を買って、大きく儲けたんですね。僕が創業したのは1989年でしたが、まわりからは「アメリカ株をやったほうがいいんじゃないか」とずいぶん言われたものです。
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で、アメリカの株価は過去30年、年率平均8.7%で上昇して、今やPBRで1倍割れをしている企業は10%に満たない。まあ割高になったわけです。

"アクティビスト"のやり方は素人

藤吉:アクティビストから企業へのアプローチには、企業にとって本当によい提案もあれば、単に自分たちの金儲けのために言ってるようにしか思えないものもあります。このへんの見極め方というのはあるのでしょうか。

阿部:それは非常に難しいんですが、例えば、江戸時代の末期に老舗の大きな「草履屋」と創業したばかりの小さな「靴屋」があったとしましょう。そこで草履屋の株を買い占めて、「この先の成長はないんだから、今持っている財産を全部吐き出せ」という投資家もいるでしょう。そうかと思えば、創業したばかりの「靴屋」にお金を出して、「もっと将来の成長のために設備投資しなさい」という投資家もいるはずです。

藤吉:そうですね。

阿部:一方で、じゃあ「草履屋」さんが将来のことを考えてないかといえば、商売人として考えているはずなんですよ。それまで培ってきた高い技術力もある。けれど株を買い占めた投資家が問答無用で「将来はないから今もってる財産を全部出せ」みたいな話になると、潜在的な成長の可能性も潰えてしまう。

アクティビストと言われる人たちがやっているのはこういうことですよね。今はものすごく低迷しているけど、これまでに蓄積した土地だったり財産だったりをたくさん保有している会社を狙う。けれど僕から言わせると、そんな会社を狙うのは"素人"なんですよ。

藤吉:どのあたりが"素人"なんでしょうか?

阿部:だってその会社が持っている土地とか財産なんてものは、素人のアナリストでもちょっと調べれば分かりますからね。僕らはそうではなくて「靴屋」を探す。つまり、今は小さくても投資を有効に使えるグローバルなビジネスの基礎を持っている会社ですね。

"投資の神様"ウォーレン・バフェットは「悪い企業がよくなることは難しい」と言っています。その企業がいくら現金や財産を持っていようが、それだけでビジネス自体がよくなるということは、なかなかない。じゃあ、いい会社というのはどういう会社か。これについてもバフェットはいろんな判断基準を持っているんだけど、一番わかりやすいのが「自己資本利益率(ROE)」です。その企業が自己資本(株主が投下した資本)に対してどれだけ利益を上げているか。

藤吉:企業が株主のためにどれくらい収益を上げているかを示した指標ですね。

阿部:そうです。だから僕らも、このROEに注目しながら、本来もっと評価されてしかるべき企業に投資をして、経営陣と対話しながら、さらなる成長を促す。そうすることで、質の悪いアクティビストにアタックされない態勢を作って欲しいと思っています。
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text by Hidenori Ito/ photograph by Kei Onaka

連載

市場の波をつかむ12の方法 スパークス代表・阿部修平×Forbes JAPAN 編集長・藤吉雅春

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