ペンタックス合併劇の「舞台裏」
藤吉:阿部さんも投資家として、これまでいろんな企業に対して経営に関する提言などをされてきたと思うんですが、とくに印象に残っている案件はなんでしょうか。阿部:実際に僕らが株主提案という形で経営陣に提言し、話題になったという意味では2007年のペンタックスのケースです。当時、うちはペンタックスの筆頭株主だったんですが、HOYA(日本の光学機器・ガラスメーカー)との間で合併話が進んでいたんです。
藤吉:あの合併劇の陰で阿部さんが動いていたんですか。
阿部:一眼レフで有名なペンタックスは、もともとは潜水艦の潜望鏡を作っていた会社なんです。レンズって究極のマニュアルテクノロジーの結晶で、当時の世界シェアのかなりの部分をペンタックスが占めていて、すごい利益を上げてもいた。ただ、ビジネスとして先の成長はあまりないわけです。
藤吉:まさに先ほどの例でいえば、「草履屋」さんだったんですね。
阿部:その通りです。それで新たなビジネスの柱として、デジタルカメラをやり始めたんですけど、僕はそれには反対だったんです。やっぱり根がアナログの会社なので、プロダクトサイクルの短いデジカメ分野で競争するのは愚策ではないかということを当時の浦野(文男)さんという社長に言い続けたんですね。
藤吉:家電メーカーとの価格競争に巻き込まれてしまうのはマズい、と。
阿部:その対極にある会社ですからね。一人ひとりの顧客の顔が見えるようなプレミアムな商売をやってきたわけだから。
経営者の背中を押してやるのが僕らの仕事
藤吉:デジカメをやるよりは、強みのレンズ事業を大事にしながら、HOYAとの経営統合を進めた方がいいというのが阿部:さんたちの方針だったんですか?阿部:ペンタックスで特に優位性があった事業は内視鏡です。HOYAは医療分野にも強かったんで、ここと組めばお互いにメリットは大きいと考えていました。それで浦野社長も私たちの意見に同調して、取締役会で「デジカメ事業を辞めたい」と言ったら、解任されちゃったんです。これでHOYAとの統合もいったん白紙に戻ってしまいました。
藤吉:浦野社長を解任して新しく経営陣になった人たちは、デジカメ事業を推進することで、HOYAとの合併は避けたいという考えだったわけですね。
阿部:まぁ、そうですね。けれど、もしHOYAとの統合がポシャったら、ペンタックスの株価は暴落してしまう。我々も顧客の資産を預かる立場なので、これを看過するわけにはいきませんでした。そこで株主提案により、合併反対派の役員を外すように求めたんです。最終的にこれが決定打となり、HOYAによるTOB(株式公開買い付け)が成立しました。
藤吉:それがなければ、ペンタックスは潰れていた?
阿部:そう思いますね。経営者の背中を押してやるのが投資家としての僕らの仕事だと言えるかもしれません。経営者の共感を得られてこそ真のアクティビズムだろう、と。そこがいわゆる"アクティビスト"とは違うところだと思っています。