噂の書籍『スローフード宣言』から学ぶ、人間性のサステナビリティ

海士町公式noteより

私は経済人なのか?社会人なのか?解答は「統合する」こと

高津: 本書では「ファストフードか?スローフードか?」と表現していますが、これは「私は経済人なのか?社会人なのか?」という問いだとも捉えられます。
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「私は経済的に合理的なことをします」なのか、それ以外も含むのか。実は「どちらかではなく、どちらも」なんですけれどね。人は皆、経済人と社会人、両方の側面を持ちあわせているし、また経済人としての時間軸や空間軸を広げるべき、というのが現状です。

「経済人」として「食べる」のであれば、「うまい、早い、安い」は大事。便利が一番です。ところが、そればかりしているとどうも、世の中が縮んでいく、傷んでいくことが「社会人」としての自分に見えてきた。


アリスさんは、フランス留学時の衝撃体験をベースとした「人々に豊かな暮らしを提供したい」という社会人的動機から、レストランという経済活動を成功させた。つまり、どちらかに偏ることなく、経済人である自分と社会人としての自分の美意識を統合させた人なのだと思います。
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私自身の体験で、思い出したことがあります。富山で農家を営む友人一家のところに遊びに行った時です。彼らの紹介で訪れたレストランが素晴らしかった。シェフは、フランス料理を真剣に修行し、東京でもお店を持ち、その後富山でレストランを開きました。

ある時、東京から来たお客さんから「ここの料理は美味しいんだけど、これなら東京でも食えるんだよね。富山ならではの何か、とかないわけ?」と言われたそうです。

ハッとして、富山や近い地域から、地元の最高の食材はもちろん、地元の職人による最高の器やカトラリーをも発掘して「新地域料理(ヌーベル・キュイジーヌ・レジョナール)」を創り上げた。

そしてラグジュアリー・フードとして1食2万円で提供するようになった。1食2万円のディナーは、それだけですごい経済活動ですが、地域の農家や陶芸家などの生活を支えるエコシステムに貢献し、外部経済性も大事にしているわけです。これは、経済人と社会人の美意識が統合した良い例だと思います。

付加価値という「美」を添えて、高い値段で売るスイス商法

阿部: そこで悩むことは、1食2万円のディナーを食べに行くことがスローフード文化だと言いきってしまうと、オーガニックってお金持ちのための活動だっけ?という疑問を持ってしまうところです(笑)。

高津: もちろんです。この本の中でアリスは「目に見える丁寧なもの作りの連鎖を作りながら、豊かな暮らしをしましょう」と提案しています。なので価格帯については、より手ごろな価格でも色々なものが存在しうると考えます。

阿部: オンラインで参加していらっしゃる高橋博樹さん、ここから、ご参加お願いします。

高橋: 2万円のディナーの話が出ましたが、車や土地の価格相場に対して、日本はそもそも食の価格設定が低すぎるのかな、という印象があります。

高津: そうですね。では、東京のランチを例にとってみましょうか。東京って丸の内や大手町の一等地でも1500円で相当美味しいランチが食べられるんです。今、1500円って10米ドルや10スイスフラン。米国やスイスでは、その値段ではろくなものが食べられません。日本の食の価格設定が、大きく間違っている可能性はあります。

阿部: 価値基準が大きく転換する時期にきているのかもしれませんね。

高津: 確かに。例えばマクドナルドのビックマックセットは、日本では700円ですが、スイスでは今の為替レートだと2200円になります。スイスでのスーパーマーケット従業員の最低賃金は、月額62〜64万円。スイスは国全体として、知識や技術を「美」で包んで高い値段で売ることに長けています。

日本には、もともと素晴らしい技術とサービスのノウハウも、高い美意識もあるので、スイス的な戦略は、やりようがあると睨んでいます。

阿部: 高橋さん、いい投げかけをありがとうございました。
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文=中村麻美

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