土星最大の衛星タイタンに、地球外生命は存在するだろうか。地球以外で表面に気象現象と液体が存在する太陽系唯一の天体であるタイタンは以前から、生命を育んでいる可能性のある場所の候補に挙がっている。ドローン型無人機でタイタンを調査する心躍る探査ミッション「ドラゴンフライ」の打ち上げが2028年7月に予定されている中、どのような探査結果が期待できるかに関する現実的な評価を試みた最新の研究結果が発表された。
タイタンが特異な理由
2008年には、米航空宇宙局(NASA)の土星探査機カッシーニの観測で、タイタンに水とアンモニアからなる内部海が存在することが示唆された。太陽系の氷天体、特に木星と土星の氷衛星は氷殻の下に海があり、そこに生命が存在することは理論的には可能と考えられているが、タイタンの状況は他と異なる。今回の研究をまとめた論文の筆頭執筆者で、米アリゾナ大学生態学進化生物学部の博士課程修了研究員のアントニン・アフホルダーは「この研究で重点的に取り組んでいるのは、タイタンが他の氷衛星と比べて特異な状況にある理由についてだ」と話す。
タイタンには、窒素を豊富に含む大気、液体メタンの雨や湖や海、汀線(湖や海と陸との境界線)、渓谷や尾根、氷の岩、メサ(卓状台地)、砂丘などがあるだけでなく、生命そのものの構成要素になるかもしれない奇妙な前生物化学が存在している。大気中でメタンや窒素から生成される複雑な有機化合物が、タイタンの表面に蓄積しているのだ。これは食物、そして生命を意味するのかもしれない。あるいは、そうではないかもしれない。
タイタンで生命存在の可能性がある場所
科学誌The Planetary Science Journalに掲載された今回の論文によると、タイタンには単純な微生物が生息している可能性がある。だが、全体としての生物量(バイオマス)は、せいぜい数kgにすぎない可能性が高い。なぜなら、タイタンで生命が存在する可能性が最も高い内部海は深さが450km以上あり、有機化合物が存在する表面との相互作用があまりないからだ。
アフホルダーは「タイタンは有機物が非常に豊富なので、生命を支えられる食物源はいくらでもあると、これまで考えられてきた」として「有機分子がすべて食物源を構成するわけではないかもしれず、内部海は非常に大きいうえに、内部海と表面との間の物質のやり取りが限られている」と説明する。しかし、だからといって生命が存在しないというわけではなく、起こり得るメカニズムが変わるだけだ。
