タイタンの生命存在の最も可能性の高いシナリオ
タイタンの生命の存在を後押しする最も可能性の高いシナリオは発酵だと、研究チームは考えている。地球ではパンやワイン、ビールやキムチなどの製造過程としてよく知られている発酵は、微生物による物質の分解作用であり、必要なのは有機分子だけで、酸素のような「酸化剤」は不要だ。発酵は呼吸とはまったく異なる。呼吸は、植物から動物までの地球の生物のあらゆる細胞で行われている化学反応の1つだ。
アフホルダーによれば、地球の生命は地球形成の残りの有機分子を食物とする生物として最初に出現した可能性があり、発酵によって「タイタンで発生したかどうかわからない未知の、あるいは推測されるメカニズムへと可能性を広げる必要がなくなる」という。
「小型犬1匹」相当の微生物
アフホルダーと研究チームは特に、アミノ酸の一種のグリシン(NH2CH2COOH)に着目した。グリシンはタイタンの大気中で合成されて表面に堆積し、内部海にまで到達する可能性がある。内部海中の微生物がグリシンを食物とすることができただろうか。これは、偶然の選択ではなかった。グリシンは彗星や小惑星で見つかっているほか、星形成や惑星形成の材料になるガス雲にも存在する。原始太陽系にも豊富にあった。だが、内部海に到達するグリシンの量はほんのわずかであることが、研究チームが実施したコンピューターシミュレーションで明らかになった。
アフホルダーは「この供給量では、ごくわずかな個体数の微生物を支えることしかできないかもしれない。微生物の総重量にしてせいぜいわずか数kg、小型犬1匹分の質量に相当するにすぎない」として「このように極めて小さい生物圏は、タイタンの広大な海全体で平均すると水1リットル当たり単細胞生物1個足らずとなる」と説明した。
NASAのドラゴンフライ探査機は、2034年にタイタンに到着する予定で、探査期間は2年の見通しだ。ミッション期間中は、回転翼を持つドローン型離着陸機がタイタンの1日(16地球日に相当)ごとに新たな場所へと飛行し、表面にある有機化合物の試料の採取、化学的なバイオシグネチャー(生命存在指標)の探索、タイタンの活発なメタン循環の調査などを実施する。



