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宇宙

2025.04.19 11:15

15億光年先の粒子が未来を変えるか、千葉大の新発見

プレスリリースより

プレスリリースより

超新星爆発や超巨大ブラックホールがその強大な重力で天体を引き裂くといった現象からは、膨大なエネルギーや物質が放出される。それが宇宙粒子に高いエネルギーを与える。つまり光速に近い猛烈な速度に加速して、宇宙の果てまで粒子を届ける。そうして宇宙の活動が維持されている。宇宙自身の活動の目的は計り知れないが、そうやって宇宙は高エネルギー地帯からせっせと粒子を各地に送り届けている。そんなエネルギー供給源は宇宙にどれほど存在して、どれほどのエネルギーを放出しているのかはよくわかっていないのだが、南極で行われている宇宙ニュートリノの観測実験において千葉大学が今後の観測に大きく寄与する知見を発見した。

ニュートリノとは

ハドロン宇宙国際研究センター公式ホームページより。
ハドロン宇宙国際研究センター公式ホームページより。

分子の材料である原子の材料となる陽子と中性子のさらに材料となる素粒子のひとつ、ニュートリノのサイズは100京分の1メートル。わかりやすく言うなら、ニュートリノを1円玉ほどに拡大すると、人間の体は銀河系ぐらいの大きさになるということだ。そう言われてもやっぱりピンと来ないが。宇宙にはニュートリノが大量に存在している。あらゆる物質を通り抜ける性質を持つニュートリノを利用すれば、電磁波などで邪魔をされてよく見えない領域も観測が可能になり、数々の宇宙の謎に迫ることができるとされている。日本では岐阜県のスーパーカミオカンデという世界最大級の観測装置でニュートリノの観測が行われているが、南極にも巨大な観測装置がある。

南極点の超巨大観測装置

ハドロン宇宙国際研究センター公式ホームページより。
ハドロン宇宙国際研究センター公式ホームページより。

南極点直下、1500〜2500メートルの深さの氷の中に、直径約33センチメートルの球状の光検出器を5160個埋め込んで高エネルギーニュートリノを観測する「アイスキューブ」プロジェクトという実験が、日本を含む12カ国49研究機関が参加して行われている。その参加機関のひとつに千葉大学ハドロン宇宙国際研究センターがあるが、同センターはこのたび、アイスキューブ実験の11年間の観測データを解析して宇宙エネルギー供給源について新たな知見を得た。

それは、アイスキューブ実験で初めて観測が可能になった同じ方向から複数のニュートリノが飛来する「多重事象」を解析して判明した、観測候補を絞り込む新たな研究方法だ。これまで観測された多重事象を調べた結果、3つのニュートリノが捉えられるには発生源となる天体が15億光年以内に存在しなければならないことがわかった。距離が遠くなるほど地球に飛来するニュートリノの密度が低下するからだ。これにより、とくに可視光線での観測を組み合わせた「マルチメッセンジャー天文学観測」の課題だった無関係な背景天体の除去が可能になる。これは過去11年分の観測データの研究だったが、これにより今後は未来の観測に足を進めることが可能になるということだ。

これが何の役に立つのか?

15億光年先から飛来した100京分の1メートルの素粒子3つとは、まさに大きすぎて小さすぎて頭がクラクラする非日常的に感じられる話だが、こうした高エネルギーニュートリノの研究は、決して我々の日常生活と無関係ではない。たとえばアイスキューブ実験は、センサー技術、極限的な環境に対応できるシステム、データ解析などさまざまな最先端の技術開発をともなうため、医療機器、気象予報、地震探知、AI応用技術の発展に貢献する。物質を通り抜ける性質のあるニュートリノを使えば、地球内部を観測して地震を予知するといった技術にもつながる可能性がある。さらに、光や電波では見えないブラックホールの近くもニュートリノを使えば見えるようになり、そこから新たな量子力学や物理法則が発見され、医療、通信、エネルギー技術のブレイクスルーをもたらす可能性もあるのだ。

プレスリリース

文 = 金井哲夫

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