宇宙

2025.04.05 11:00

NASA史上初の「月面電波望遠鏡」、月の南極域から銀河電波を検出

民間企業として世界で初めて月面着陸を成功させた米Intuitive Machinesの無人月着陸機オデュッセウスを描いた想像図(Intuitive Machines)

民間企業として世界で初めて月面着陸を成功させた米Intuitive Machinesの無人月着陸機オデュッセウスを描いた想像図(Intuitive Machines)

観測史上初めて、月面の超低周波電波望遠鏡が、天文データを地球に送り届けることに成功した。この探査計画は完全に計画通りにはいかなかったものの、地上にいる科学者はこのデータを用いて、太陽系が属する天の川銀河(銀河系)の低周波電波の痕跡を確認することができた。米コロラド大学ボルダー校(UCB)が主導したチームによる今回の研究結果をまとめた論文は、天文学誌The Astrophysical Journalに掲載される。

論文の共同執筆者で、UCB名誉教授(天体物理学)のジャック・バーンズは、取材に応じた電子メールで、月からの電波天文学を妥当なコストで実施でき、科学的な可能性も高いことを今回の研究で実証できたと述べている。

研究チームは、米国航空宇宙局(NASA)が資金供与した観測機器「ROLSES-1(月表層光電子層電波観測)」を利用した。ROLSES-1は、2024年に月面着陸に成功した米航空宇宙企業インチュイティブ・マシーンズ社のオデュッセウス着陸機に搭載され、月に送り込まれた。オデュッセウスは月の南極点から約10度ほどの位置にある「マラパートA」クレーターの近くに着陸したが、着陸時にトラブルが発生した。

それでも、月面から少量のデータを収集できた結果、銀河電波スペクトルの適度な検出が認められたと、論文の筆頭執筆者で、UCB博士号取得候補者(天体物理学)のジョシュア・ヒバートは、取材に応じた電子メールで述べている。ヒバートによると、銀河系は低周波域の電波で極めて明るいため、ROLSES-1で検出することができた。その理由は、銀河磁場の中を旋回運動しながら進む高エネルギー粒子が、膨大な量の放射を発するからだという。

オデュッセウスの通信アンテナは、結果的に正しい方向に向けることができず、月面に水平に配置されてしまった。

バーンズは取材に対し、垂直速度(時速約9.7km)と水平速度(時速約3.2km)の両方が予想以上に速かったことにより、着陸機は「厄介な状況」に陥ったと語った。バーンズによると、6本の着陸脚のうちの1本の支柱が月面衝突の衝撃を吸収したことで、脚が折れてしまい、着陸機の機体が片側に約30度傾いた。

好ましい知らせは?

バーンズによると、月周回軌道に到達するまでの飛行中に、アンテナの1本を用いて約80分間の観測データを取得した。月面着陸後には残りの3本のアンテナを展開し、2日間にわたり約20分間のデータを取得したという。

その結果として、銀河系からの電波放射を検出することができた。

高エネルギー粒子(宇宙線)と希薄な星間媒質中に組み込まれた磁場が、銀河系の円盤とハロー領域を満たしていると、バーンズは説明する。高エネルギーの宇宙線電子が銀河系の磁場内で旋回運動すると、電子が減速され、シンクロトロン放射と呼ばれるプロセスによって電波が発せられるという。

研究チームは世界で初めて、この銀河シンクロトロン放射を月から検出したわけだ。

次ページ > 月から電波天文観測を行う理由とは

翻訳=河原稔

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