ブラックマンバ(学名:Dendroaspis polylepis)について、たいていの人が知っていることといえば、アフリカに生息するコブラ科のヘビで、並外れて大型になり、恐るべき猛毒をもつことくらいだろう。爆発的なスピードで攻撃を繰り出すため、まるで空へと飛び立つかのように見える、と聞いたことがある人もいるかもしれない。
あまり知られていないのは、ブラックマンバという名前が体色を表しているわけではないことだ(体色は灰色や褐色)。この名前は、かっと口を開けた時の内部が、インクを落としたように黒いことに由来している。自分が「臨戦態勢」にあることを伝える、ぞっとするような警告だ。
進化生物学者にとって興味深いのは、こうした特徴のどれをとっても、完璧なまでに捕食に特化していることだ。一つ一つの特徴は単独でも恐ろしいが、これらすべてが合わさると、自然界で最も効率的な、悪夢のような捕食者ができあがる。
主要な特徴を総合的に考えると、ブラックマンバはもはや、単なる致死的な毒ヘビというよりは、ヘビの形をした純粋な恐怖なのだ。

1. ブラックマンバの移動速度は、ヒトの短距離走に匹敵する
ブラックマンバは並外れたスピードで知られ、陸生のヘビとしては世界最速の種の一つだ。『ナショナル・ジオグラフィック』の推定によれば、その移動速度は、短距離ならば時速20kmに達する。この敏捷性のおかげでブラックマンバは、全長が4mを超えることもある巨体でありながら、確実に外敵から逃れ、獲物を追い詰めることができる。
比較対象として、ヒトの短距離走の速度を考えてみよう。健康状態やトレーニングの程度によってさまざまだが、平均的な短距離走者の男性は時速約31.4km(100mを約11.5秒)、女性は時速約27.5kmで走ることができる。
つまり、ヒトの短距離走のために設計された、平坦で管理の行き届いたトラック上であれば、トレーニングを積んだアスリートはブラックマンバから逃げ切ることができる。だが、現実世界での遭遇は、サハラ以南アフリカのサバンナや、岩が露出した丘陵地、木々がまばらに生えている林地といったところで起こる。こうした環境では、ブラックマンバの爆発的な加速、敏捷性、予測困難な動きが手強い特徴となる。自然生息地のなかで遭遇したら、安全な距離を保って観察するのが最善であるのは、こうした理由からだ。

このヘビは主に、蛇行と呼ばれる移動を行う。筋肉を伸縮させて、地面にS字型の跡を残しながら、ばね仕掛けの機械のように進むのだ。特殊な形をしたうろこが小さなフックのようにはたらき、地面をしっかりと捉え、また地面を押して前進するのに役立つ。
ヘビのなかには、障害物に苦戦する不器用な種もいるが、ブラックマンバはあらゆる物体の表面を、外科手術のような正確さで利用する。彼らは実質的に、どんな地形であっても、すばやい移動に役立てることができるのだ。
2. 適切な抗毒血清を投与しないかぎり、30分で死に至る
ブラックマンバは、強力な神経毒をもつことで悪名高い。重い咬傷で、治療が受けられなかった場合は、約30分で死に至る可能性がある。世界保健機関(WHO)はブラックマンバを、毒の強さ、および臨床症状の発症の速さと重篤性から、サハラ以南アフリカで最も医学的懸念が必要なヘビの一種としている。
ブラックマンバの猛毒は即効性だ。神経機能を阻害して、進行性麻痺や呼吸不全を引き起こし、治療が受けられなければそのまま死に至る。
スイスで起こった、ヘビのブリーダーがブラックマンバに咬まれた症例記録では、患者の治療法が詳述されている。自然分布域から遠く離れた場所での咬傷だったが、即座に抗毒血清を投与したことで患者は助かった。この事例は、医療介入の鉄則を物語る。抗毒血清の投与が早ければ早いほど、患者の生存確率は高まるのだ。
抗毒血清を投与しないかぎり、ブラックマンバ咬傷の死亡率はほぼ100%だ。これは、深く憂慮すべき事実だ。なぜなら、自然分布域であるサハラ以南アフリカの大部分において、抗毒血清の供給は限られているか、まったく手に入らないからだ。

3. ブラックマンバは脅威を感じると、「連続的な先制攻撃」で自衛する
最恐の毒ヘビとして知られるブラックマンバだが、本来は警戒心が強く、可能なかぎりヒトとの遭遇を避ける。闘争よりも逃走を選び、目にも止まらぬスピードで危険から遠ざかるのが通例だ。
しかし、追い詰められ、挑発され、逃げ場がないと感じたブラックマンバは、完全無欠の殺し屋へと変貌する。
いったんスイッチが入ると、ブラックマンバは怒涛の連続高速攻撃を繰り出す。他種のヘビであれば、カムフラージュに頼りつつ、毒で獲物の動きを止める。しかしブラックマンバは、「衝撃と畏怖」による自衛戦略をとる。間髪を入れずに連続攻撃を仕掛け、そのたびに強力な神経毒を大量に注入するのだ。
何よりも恐ろしいのは、攻撃のスピードと正確性だ。一瞬のうちに、ブラックマンバは外敵の顔、腕、その他の露出した部分を狙って何度も咬みつく。この「電撃戦」型の自衛により、彼らは大型捕食者もひるませ、退却させる──たとえ一度でも毒を注入されれば、数分のうちに無力化されるからだ。