ヘビはずっと以前から、生活も狩りも単独で行う孤独な生き物だと考えられていた。しかし、最近の研究によって、それとは違った話が語られ始めている。
ヘビのなかには、人間の周りにいる社会的動物と大きく変わらない交流があるものもいる。例えば、2023年11月に『Behavioral Ecology』で公開された研究によると、バトラーガーターヘビには、年齢と性に基づく複雑な社会構造がある。また、こうしたヘビでは、社会的なつながりのある個体ほど健康だった。これはヘビ同士の友好関係が、ヘビのウェルビーイングに影響することを示唆している。
こうした知見は長年の想定を覆すものだが、こうしたヘビたちの生態をリアルに観察できるイベントがある。それは、野生生物による、地球屈指の驚くべき光景の一つだ。
カナダのマニトバ州のナルシスという村に近い自然保護区にある「ナルシス・スネーク・デンズ(Narcisse Snake Dens)」では、毎年春に地球上で最大のヘビの集会が発生する。 アカハラガーターヘビ(Thamnophis sirtalis parietalis)が大量に出現し、もつれ合って「生きた結び目」になることで有名だ。
悠久の時が作り出した、理想的な冬眠場所
ガーターヘビの亜種であるアカハラガーターヘビは、北米に広く生息する。しかし、マニトバ州のインターレイク地区にあるこの場所のような条件がそろっているところはほかにない。
ここでは冬になると気温が恒常的に摂氏マイナス30度を下回り、1年のうち半年近くは大草原が雪に埋もれる。体温が周囲の温度で決まる外温動物からすると、それは死刑宣告のようなものだ。
しかしナルシス・スネーク・デンズでは、風が吹き荒れる土地の下に、悠久の時が作り出した地下の避難所がある。ここの岩盤は石灰岩で柔らかく、多孔性(微細な孔(穴)が多数存在する)があり、大昔から存在する。
およそ4億5000万年前、この土地は海洋生物がひしめく熱帯海の底にあった。海水が長い時間をかけて炭酸カルシウムを溶かし、石灰岩に深い亀裂を刻み、洞窟を掘った。このような地下のクレバスとシンクホール(陥没孔)が、地表から数m下に広がっている。地下凍結線よりは十分に深く、地下水面よりは少し浅い。
冬眠を求めるアカハラガーターヘビたちが長い眠りにつくのに、これ以上の場所はない。寒さで代謝が遅くなり、湿り気が乾燥を防ぎ、外敵からも守られているので、何カ月にもわたる冬の休止状態を続けられる。
100匹が絡み合う「交尾ボール」
ナルシス・スネーク・デンズは一見すると、発育不良のアスペン(ホワイトポプラの木)と乾いた草が広がる草原に、たくさんのシンクホール(地面が陥没してできた穴や凹み)が存在しているだけの土地に見える。しかし、春になるとここには活気が満ち溢れる。石灰岩の鍾乳洞の奥深くから、何千、何万というオスのアカハラガーターヘビが出てきて、岩の上やお互いの上でとぐろを巻き、緩慢な求愛合戦を繰り広げるのだ。
そこにメスたちがやってくる。
アカハラガーターヘビたちの、盛大なる社交の季節だ。毎年、数週間のあいだ、7万5000~15万匹の個体が、つがいになろうとしてここに集まる。
最大の見ものは「交尾玉(マッチングボール)」。時に100匹に上る、身をくねらせるオスの集団に、一匹のメスが埋もれてしまう。どのオスも交尾のチャンスを求めて、1匹のメスに尻尾を絡ませようと競うのだ。
ただしこれは、ありきたりの競争ではない。というのも1985年6月に専門誌『Comparative Psychology』で公開された研究では、オスのアカハラガーターヘビは、周りにメスしかいない場合よりも求愛ライバルがいる時の方が刺激されると述べられている。