だが、電波天文学のために月に行くことが本当に必要なのだろうか。
バーンズによると、地上の電波望遠鏡は全て、より高い周波数帯で運用されている。月の特に裏側では数十kHz~50MHzの周波数帯で運用されるが、この周波数帯は地球からは利用できないという。なぜなら、電波周波数干渉(RFI)が発生したり、地球の電離層が電波放射を屈折・吸収したりするからだと、バーンズは説明した。
電波雑音の多い地上環境
地球を周回する多数の人工衛星の出現により、電波天文学が最近ますます困難になっていると、ヒバートは指摘する。すなわち、電波天文学の周波数の多くが、今や科学目的では全く役に立たなくなっているという。
だが、月の裏側は太陽系の内部で最も電波的に静かな場所だ。また、地球から見て常に外側を向いているため、地球の自然および人工の電波雑音から遮蔽されている。
それでは、なぜ月を拠点とする電波観測の実現にこれほど時間がかかっているのだろうか。
月面電波望遠鏡の提案は、過去40年にわたって行われている。NASAのアポロ計画が中止されてからの50年間において、月の裏側という低周波電波観測にとって非の打ち所のない場所の利用にこれほど長い時間がかかっていることは、科学の悲劇だ。
当時のリチャード・ニクソン米大統領がアポロ計画を終了させてから、月を利用することができなくなったと、バーンズは指摘する。現在、半世紀に及ぶ技術的進歩を受けて、個々の企業が宇宙科学的貨物の主要顧客としての役割を担うNASAと協力して、無人宇宙船を設計・製造することが可能になっていると、バーンズは続けた。
次なる展開は?
初期宇宙の暗黒時代を探る史上初の宇宙論的観測の実施を目的とする電波望遠鏡「LuSEE-Night(Lunar Surface Electromagnetics Experiment-Night)」が2026年前半、月の裏側に向けて打ち上げられる予定だ。また2028年には、ROLSES-1で当初予定されていた科学的調査を完了させるため、月の表側にROLSES-2を着陸させる計画がある。