噂の書籍『スローフード宣言』から学ぶ、人間性のサステナビリティ

サステナビリティへの配慮がないと、事業そのものができなくなる時代

高津: 著者のアリスさんは、丁寧な生き方をされていらっしゃる方だとお見受けしまして、小野寺さんも翻訳する上で言葉を丁寧に丁寧に紡いで下さった。そうですよね?

小野寺: ありがとうございます。本書の中では、ファストフードとスローフードが対比されています。ときには、現代社会や資本主義のありようを真っ直ぐに批判しているので、日本の読者にはストレートすぎるのではないか、心に響く前に、心が折れてしまうことはないかと心配もしました。

著者の本意がちゃんと伝わるように、本人が持つお母さんのような温かい雰囲気を、翻訳で表現しようと心を配りました。

アリス・ウォータース

アリス・ウォータース


高津: この本は、この一年で僕が読んだ本の中でも、最も感銘を受け、力を感じたものでした。本のテーマはスローフードですが、スロー・リーディングとでもいうか、とても充実した、豊かな読書体験だったのです。

今日の本題である「ビジネスパーソンは何をすべきか?」ですが、それは簡単に答えが出るものでも、出すものでもない、と思います。

私自身、スイスに本部があるビジネススクール「IMD」の仕事をしているので、東京にいながらヨーロッパの情報がリアルタイムで入ってきます。今、世界のビジネス界で問われているのが、サステナビリティに関する意識の高さと行動の確かさです。

サステナビリティには、気候変動だけでなく人権や格差の問題も含まれています。つまり、「食べる」は勿論のこと、「着る」「住まう」、そして「生きる」全体を包含する概念なのです。

IMD 北東アジア代表 高津尚志

IMD 北東アジア代表 高津尚志

ビジネスの意思決定者が、二つの選択肢を持ったとします。Aという道はこれまで通り、効率よく稼ぐことができる。一方、Bという道は、環境や人権に配慮しているが、短期的には儲からなくなる。ところが今、ヨーロッパの経営者の中で、短期的な利益を損なうとしてもBを選ぼう、という動きが顕著になってきています。

『スローフード宣言』でも、ファストフードは消費者にとって便利で経営者も儲かるけれど、違うやり方を考えるべきだ、と提言していますが、そういう気運が急速に高まってきていると僕は感じています。

阿部: 高津さんご自身について伺います。世界中のビジネスリーダーと接する機会が多いと思いますが、これからのビジネスリーダーにどういった学びが必要か?普段から、どのような環境作りが必要か?についてお聞かせ下さい。

高津: スローフード宣言は、持続可能な生き方の話です。この10年ほど、持続可能な社会の在り方が語られてきました。

そして今、気候変動の問題に加えて、ロシアによるウクライナ侵略が起こり、資源問題も浮上してきました。これまでの私たち人間の経済システムの在り方そのものが、地球のシステムと合わなくなってきている。そういう危機感を、程度の差こそあれ、多くのビジネスリーダーが持つようになってきていると思います。

阿部: なるほど。強い危機感が現実的に迫ってきた結果、ビジネスリーダーは、それを前提に会話をする必要があるのですね。

高津: おっしゃる通りです。これまでのビジネスリーダーは、クライアントと株主の顔色を伺っていました。ところが、肝心の株主や投資家が、「地球が危機的な状況において、どこに投資するのが本当によいのか?」と真剣に考え始めた結果、サステナビリティに配慮をした経営をしている企業に投資するようになった。

そうしなければ、投資家としての責任を果たしているとは言えない、という時代になってきたということです。

阿部: ある意味、ビジネスと個人が近づいたわけですね。
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文=中村麻美

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