食という切り口から人間性のサステナビリティを語った内容は、今の日本だからこそ発信できるコンテンツになり得る。
そこで、世界の経営幹部教育をリードするビジネススクール「IMD」で北東アジア代表を務める高津尚志と、『スローフード宣言』を出版した「海士の風」代表の阿部裕志、さらに、翻訳者の小野寺愛を交えたオンライン・イベントが昨年12月20日に実現した。
チャットでは視聴者からの意見も飛び交い、参加者一体型の催しとなった。経営の在り方、ひいては人間の生き方のヒントとなる、この本の読みどころを紐解いていく。
『スローフード宣言 食べることは生きること』アリス・ウォータース (著)、ボブ・キャロウ (著)、クリスティーナ・ミューラー (著)、小野寺愛 (翻訳)
スーパーもコンビニもない島から出版された『スローフード宣言』
阿部裕志(以下、阿部): 今日、高津尚志さんと小野寺愛さんに入っていただき、『スローフード宣言』出版記念トークイベントを開催します。背景には先日、高津さんとお会いした時にこの本を褒めていただいたことがありました。
「『スローフード宣言』、読んだよ。すごく面白かった。食にとどまらず、人間性のサステナビリティについて書かれた内容だった。この本には世界のビジネスリーダーが求めている話が詰まっている!」と、1時間もの立ち話(笑)をしたことから、このイベントが実現しました。
高津尚志(以下、高津): そうでしたね。話し込んでしまって、私は、次のアポイントに遅刻しそうになったんです(笑)。
阿部: それで、高津さんの話を僕だけで聞くのは勿体無いと思って、今日のイベントを開催しました。出版するにあたり、翻訳者として、とても大事にこの本を作って下さった小野寺愛さんから、自己紹介も含めて挨拶をお願い致します。
小野寺愛(以下、小野寺): アリス・ウォータースの『スローフード宣言』を翻訳した小野寺愛です。私がアリスに出会ったのは、20年以上前になります。
紛争、格差、環境問題をどうにかできないかと考えながら世界中を旅していた20代の頃、「平和な世界は、子どもから始まるのではないか」「グローバルな変化も、ローカルで踏ん張っている人から広がっていく」と自分なりの答えを見つけました。
その頃、まさにその2点を実践していたアリス・ウォータースの「エディブルスクールヤード」(学校の校庭に畑を作り、屋外教室で教科学習を行う活動。全米に600校以上の実践校)に感銘を受け、こういった活動を自分でも日本でできないかな、と思い始めたのです。
20年以上の間、自分にとってスーパースターだった人の本を翻訳できるなんて、それだけで嬉しいことでしたが、出版社との出会いにもまたストーリーがあります。前作の『アート・オブ・シンプルフード』は小学館から出版されましたし、今回の『スローフード宣言』にももちろん、大手出版社も手を挙げていたと想像しています。
そんな中、アリス自身が選ぶ形で、島根県の小さな隠岐諸島の出版社「海士の風」に決まりました。「スーパーもコンビニもない、本当のスローフードが息づく土地から発信しましょう」という本人からのメッセージには、今もワクワクしています。
そんな流れから生まれた本なので、広告費をかけて、マーケティングして…というよりも、実際に読んで「いいな」と思った方が、また別の大切な誰かに贈るような流れで広まっていったら嬉しいです。