噂の書籍『スローフード宣言』から学ぶ、人間性のサステナビリティ

高津: そうですね。この本に僕は、ひとりのビジネスパーソンとしてだけではなく、ひとりの市民として夢中になったのです。外部経済性(externality)と言う言葉があります。

かつては、自分がいて、顧客がいて、その間でいい取引ができればいい、つまり、社会や環境などその関係の外で起こることは関知しなくて良い、ということでした。しかし、この本は、これまで外部経済性と捉えられていた事柄を、意思決定の内部に取り込まなくてはならない時代になったことを、思い起こさせてくれます。

阿部: 機関投資家や規制がないと企業は動かないとも捉えることができますが、そうすると企業が自発的にサステナビリティを行うインセンティブがないとも思えます。日本にいるとわかりませんが、EUなどは何を源泉にサステナビリティを推進しているのでしょうか。

高津: いい質問ですね。誰かが一人で動けばいいという話ではないんです。企業、投資家、政府、国際機関などのすべてを総動員しないといけない。

意味のある規制を作ることによって、サステナビリティを推進していくべき、そして、きちんとした行動をする会社が利益を享受できる世の中にしていくべき、という文脈で、投資家・規制当局・企業の間の対話が増えています。

サステナビリティへの配慮がないと、事業そのものができなくなる(license to operateを失う)、という日も遠くありません。


ビジネスリーダーは、心の声を聞き「セルフマネジメント」を

阿部: 色々なステークホルダーとの対話が生まれている中、議論の方向性が見えてきました。それでは、ビジネスリーダーは今、どんな悩みを抱えているのでしょうか?

高津: この本で提唱される食との接し方を希求していくと、実はファストフードに比べて価格が高くなるかもしれない。そうなった時に、「心の声」を聞くのか、「財布の声」を聞くのかという話になる。ビジネスでも同じで、心の声を聞くと、一時的には財布が傷む可能性があります。

どんなビジネスのモデルやプロセスに進化させていけば、心も財布も傷まないのか。DXとサステナビリティー推進をどう両立させるのか。DXはパフォーマンス志向で短期的で、時に多大な電力を要し、格差を拡大します。

一方、サステナビリティは地球志向で長期的です。志向と時間軸の違うこの二つをどう相乗効果に持っていくのか、これも経営の最先端の課題です。

阿部: なるほど。確かに今までは分けて考えて「ビジネスはこっちを見なくていい」「そっちを一生懸命見ようとするのはNPOだけ」みたいな考え方でした。

高津: サステナビリティの危機がこれだけ大きな課題になると、企業や企業経営幹部は、今までは見ないで済んでいた、済ませてきた葛藤や利害衝突に正面から向き合う必要があります。経営幹部にとっては、意思決定がより難しくなってきたのです。

阿部: そんな中、リーダーに求められていることは何ですか?

高津: 広い範囲での戦略的思考、システム思考を持つことはもちろん必要です。そのうえで、様々な困難の中で自分自身をどう管理し、常に精神的に落ち着いていられるか。従業員や同僚の不安を受け止めて、それを希望にして返す大きな器も求められています。これは決して簡単なことではありません。

阿部: ビジネスリーダーは、個々のものだけ見ていた時代から一歩進んで、内面性のマネジメントをしないと成り立たなくなってきたわけですね。
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文=中村麻美

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