ところで、私が今日着ているセーター、実は20年着ているんです(笑)。当時6万円と高額だったので、買う時に相当躊躇して。しかし手入れしながら20年間着続けているので、経済人としても完全に元を取りました(笑)。
凄く愛着ができた、という社会人的満足もあるし。これは先程、小野寺さんがおっしゃった「オーガニックって本当に高いの?」という問い掛けの答えになっていると思います。
小野寺: 20年間愛用している間には、それを修理する職人さんとのコミュニケーションという豊かさも生まれるわけですしね。
阿部: これこそスローフード文化の真骨頂!そういった要素を身のまわりに増やしていくことが、人間性のサステナビリティにも繋がっているのを理解できました。
「問い」を抱えて生きることは、祝福すべきこと
高津: そうなのです。なのでこの本は、食のサステナビリティの話なのですが、人間性のサステナビリティにも広がって考えられる内容だと思ったわけです。でもこれは、食やファッション、家具、住宅でも置き換えて考えられます。小野寺: 先日、日本を代表する食品メーカーの方から「この本に感銘を受けました。自分の中でもやもやしていた事柄をアリスに言語化してもらったようで、スッキリしました」とお褒めの言葉をいただいた上で、「果たして何から始めたらいいでしょうか?」と、大きな問いをいただきました。
それに対して、私は残念ながらズバッとは答えることができなかったのですが、高津さんならどう話すか、教えていただけますか。
高津: まず、その方が「問い」自体を持ち始めたことは、祝福すべきだと思いますし、小野寺さんがインスタントに答えなかったこともいいことだと思います。それだけ深い問いなので。
阿部: すぐに答えが出る問いではなく、スルメのように味わい深いのがいいんですね(笑)。「問い」を抱えて生きる行為を、祝福する尊さを知りました。
高津: 小野寺さんの翻訳の中で、おそらく「embrace」という英語だったのではないかと思う箇所を、「抱きしめる」という表現で訳した箇所があります。いい訳だなあと思いました。embraceしている人と人とが、いつか繋がることの希望を感じました。