━━米英豪の安全保障「AUKUS(オーカス)」との協力の話も出ていますね。あなたはマルチラテラル(多国間)合意を強く支持してきたので、国同士が互いを頼れるネットワークを構築すべきだとお考えでしょう。ところが現状では、ドナルド・トランプ大統領はバイラテラル(二国間)協定を好むように見えます。これは日本だけでなく、米国の他の同盟国にとっても憂慮すべき事態です。日本はこの状況をどのように乗り切るべきだとお考えですか?
ラスムセン: 私は依然として、多国間合意にもとづいた国際秩序を信じています。しかし、明らかに米国のアプローチに変化が見られます。私は常に米国を自由世界のリーダーだと考えてきました。米国を国際的な法と秩序を維持する“世界の警察官”であると思ってきたのです。
でも、もしその“警察官”が定年退職をすれば、誰かがその空白を埋めなければなりません。そこで、私が提唱したいのは「D5(デモクラシー・ファイブ)」と呼ばれる枠組みです。欧州連合(EU)、カナダ、オーストラリア、韓国、そして日本です。これらの国々が民主主義的価値を強く共有することで、互いに協力関係がいっそう深まるのではないでしょうか。
また、国際協調には変わらず大きな利点があり、必要であればトランプ大統領なしでも可能であることを示すべきです。EUはインド、オーストラリア、その他の国々と自由貿易協定を速やかに締結すべきでしょう。私たちは長年自由貿易協定について交渉してきましたが、締結に至っていません。民主主義国間の協力を強化し、投資を増やす必要があります。それが私の考える今後の道筋です。
━━どの時代も政治は難しいものです。しかし思うに、あなたが国会議員時代を過ごした1970年代〜1990年代、そしてデンマークの首相を務めた2000年代と比べ、今日の政治的なアクター(主体)には、NGO(非政府組織)やNPO(非営利組織)、多国籍企業、テクノロジー企業、そして選挙で選ばれた公職者のように振る舞っているビリオネア(億万長者)までおり、政治の世界が複雑化したように思えます。現在の政治の世界をどうご覧になり、また次世代は新しい世界秩序にどのように対応すべきでしょうか?
ラスムセン: おっしゃる通り、政治の世界は複雑化しています。そして、ソーシャルメディアの成長は、出発点としては大きな利点だと考えています。なぜなら、ソーシャルメディアは公共における議論を民主化したからです。誰もが自分の意見を表明できるようになりました。その反面、ファクトチェックがされないため、あらゆる種類の陰謀論や偽ニュースを拡散されてしまいます。これには多くの要素がありますが、基本的に、この混乱した世界を乗り切るには、強力で確固たる政治的リーダーシップが不可欠なのです。
明晰なビジョン、明確な目標、それを追求するための明瞭な戦略をもつ政治的リーダーがいなければ、人々は混乱するでしょう。突如として現在の世の中では、何が真実で、何が偽りかが分からなくなってしまいました。そして、私が「Relativism(相対主義)」と呼ぶものの増大も見られるでしょう(編集部註:絶対的な真理や価値基準は存在せず、すべては相対的な関係性の中で意味をもつとする考えかた)。つまり、ある価値を別の価値と等しいと考えることです。
しかし私の世界では、他の価値よりも優れた特定の価値が存在します。少なくとも、それが私の見解です。だからこそ、私の政治家人生を通して、私は常に明確であろうと努めてきました。人々は、私がどの方向に進んでいるのかを正確に知っています。少なくとも、現在のような混乱した世界を乗り切るうえで、それは非常に重要な要素だと思います。