経済・社会

2025.03.28 20:00

第12代NATO事務総長が語る「レッドライン」と「リーダーシップ」

━━少なくとも方向性を明確に示されている、ということですね。そうすれば、他の人も足並みを揃えられます。あるいは意見の相違もあるかもしれませんが、そうした多様性は民主主義においてはふつうのことです。

ラスムセン: そういうことです。現代の世界はとても複雑です。しかし、メッセージは明確で理解しやすいものでなければなりません。説明できないことは、擁護できません。それが私の基本的な考えかたです。首相として、また事務総長としても、もし受け取った文書を私が理解できなかったとしたら、一般の人々も理解できない可能性が高いでしょう。

そうした理由から、メッセージが相当に明確になるまで手を入れました。メッセージで伝えたいのは何か、を明確にするのです。現代の世界におけるコミュニケーションでは、これは極めて重要な部分だと思います。明瞭であること、一貫性があること、そして自分の目標と進むべき方向を一般の人々にはっきりと示すことです。

━━それが、ロシアや中国のように政治体制が異なる他の国々に対して、我々は民主主義を守ろうとしている、というメッセージになるわけですね。

ラスムセン: 民主主義を守るだけでなく、民主主義を促進するのです。私の考えでは、自由な社会に住み、民主主義の恩恵を享受している我々は、その理念を他の国々にも広める義務があります。しかし今日、最も重要なのはまずは民主主義を守り、擁護することです。

━━ご著書の中に、その内容の要諦を表す箇所があります。「おそらく普遍的な自由民主主義の夢に対する最大の脅威は、自由民主主義そのものの内部から生じる。世界の自由民主主義国は、ほとんどすべての点で世界の専制国家よりもはるかに優れている。しかしただ一つ、『率いる意志』という点を除いては」というものです。この箇所は、民主主義の長所と短所を的確にまとめているように思えます。今こそ、「リーダーシップ」を再定義する時期なのかもしれません。

ラスムセン: 私は、リーダーシップがすべてだと考えています。民主主義国家では、時に民主主義の原則の強さや価値について疑念を抱いてしまうことがあります。この自己疑念もまた、我々の弱点の一部なのです。だからこそ、自由、民主主義、資本主義の強さを信じ、メッセージを明確にする必要があります。自国民を鼓舞することも重要ですが、専制国家に対して、彼らの考えに対抗する準備ができていることを示すことも重要です。

もし自由を犠牲にすれば、平和を得ることはできます。しかし、それでは真の意味での平和と自由とは言えません。私は平和を望みますが、それは平和と自由であるべきです。そして、それは専制国家に送るべき極めて明確なメッセージになります。

2025年3月、ウクライナの和平交渉について首脳会談を行った同国のボロディミル・ゼレンスキー大統領(左)、キア・スターマー英首相(中央)、エマニュエル・マクロン仏大統領(右)        Justin Tallis - WPA Pool / Getty Images
2025年3月、ウクライナの和平交渉について首脳会談を行った同国のボロディミル・ゼレンスキー大統領(左)、キア・スターマー英首相(中央)、エマニュエル・マクロン仏大統領(右) Justin Tallis - WPA Pool / Getty Images
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文 = 井関庸介 写真 = 能仁広之

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