サイバー企業を生み出すイスラエル国防軍の「8200部隊」とは?

インバル・アリエリ

サイバーセキュリティのキーパーソンに世界の潮流について聞くシリーズ「ACCESS ALL AREAS(アクセス・オール・エリアズ)」。第1回のゲストは、「CHUTZPAH -起業家精神のルーツ」(邦訳:CCCメディアハウス刊)の著者で連続起業家のインバル・アリエリ。

今回のキーワードは、「8200部隊」。イスラエル国防軍(IDF)内でも屈指の精鋭をそろえる諜報部隊の出身者には、Check Point Software Technologies(チェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズ)やPalo Alto Networks(パロアルトネットワークス)、CyberArk(サイバーアーク)、Cybereason(サイバーリーズン)といったサイバーセキュリティ領域のリーダー企業のほか、ホームページ作成ツールWix(ウィックス)の創業者などがいる。イスラエルと米国を中心に進化するサイバーセキュリティの潮流を理解するうえで、8200部隊の存在は避けて通れない。

上場企業や“ユニコーン(評価額10億ドルを超える未上場企業)”を次々と生み出す8200部隊とは? 同部隊の出身で教官を務めた経験をもつアリエリが、部隊の性質と隊員の資質、男女平等、優れた起業家を生み出す秘密について余すことなく語った。


8200部隊:イスラエル国防軍(IDF)の参謀本部諜報局情報収集部門。信号情報収集(SIGINT)や暗号の解読を主な任務としている。建国以前から存在した「シンメン2(ヘブライ語で「新たな軍務」)」が1973年の第4次中東戦争後に再編成されたIT産業研究開発のハブでもある。出身者が創業した会社に、Palo Alto Networks、CyberArk、Cybereason、Wixなど。


井関 庸介(以下、井関):インバル・アリエリさん、「ACCESS ALL AREAS(アクセス・オール・エリアズ)」にようこそ。「Forbes JAPAN」では早くから「8200部隊」に注目し、部隊出身者たちが立ち上げた有望なスタートアップを紹介してきました。政府系情報機関としては、米国家安全保障局(NSA)に比肩する精鋭組織といわれる8200部隊ですが、どのような組織なのでしょうか。

インバル・アリエリ(以下、アリエリ):8200部隊の主な役割は「COMINT(コミント)」、つまりコミュニケーション・インテリジェンス(通信情報収集)にあります。こうした情報機関の多くは政府系機関ですが、イスラエルでは、国防省管轄下にあるイスラエル国防軍(IDF)の参謀本部諜報局情報収集部門の一部署でもあるので、IDFにも属しています。つまり、政府系機関であり、軍の一部でもあるのです。これは他国の機関と大きく違います。8200部隊の隊員は皆、「兵士」なのです。

イスラエルでは18歳の男女に等しく兵役義務があります。そして8200部隊をはじめ、テクノロジー関連の部隊には兵役の期間に所属します。この点が重要です。なぜなら、NSAなどの情報機関は大学や特殊訓練を経た30〜40代の専門家が活躍していますが、8200部隊は18〜20歳が中心だからです。だからこそ、その後のキャリア形成に大きな違いが出ます。
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文 = 井関庸介

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