サイバー企業を生み出すイスラエル国防軍の「8200部隊」とは?

インバル・アリエリ


アリエリ:私の兵役体験は5つの段階に大別できます。1段階目が、兵役前の面接とヘブライ語の試験からなる「スクリーニング(選別審査)」と、数カ月の「訓練」です。高校を卒業したばかりの18歳なので、サイバーや情報収集はもちろん、テロリズム対策や特殊作戦、化学兵器の不拡散活動のことなど何も知りません。だから審査を経てすぐに訓練が始まりますが、この訓練は迅速で効率的でなくてはいけません。NSAとは違って、私たちにとってはあくまで数年間の兵役であり、生涯そこで勤めるとは限らないからです。

2段階目が、8200部隊の一員として過ごした初年度です。8200部隊はいくつものチームから成り立つ巨大な部隊です。任務の詳細については語ることはできませんが、業務ルーティンはNSAとほぼ同じで、毎朝出勤し、情報収集・分析をして夜には帰宅します。

3段階目が、「士官訓練プログラム」に在籍した期間です。米陸軍士官学校(通称:ウェストポイント)のようなものはイスラエルにはなく、兵役に就いてから1年後に選抜された者だけが進むことできます。全員、一兵卒から始めます。でもリーダーシップの素養がある卓越した兵士の場合は、チームの一員から将校へと格上げされるのです。

井関:つまり、兵役に就いた男女すべてに等しく将校になる機会が与えられるということですね?

アリエリ:そのとおりです。IDFの参謀長や高官は全員、一兵卒から始めています。実際に能力があると認められた者だけが、組織内でリーダーとして選ばれているのです。士官訓練プログラムで6カ月訓練を積んだのち、私の場合は、以前に所属した同じチームに今度は「リーダー」として配属されました。半年前には一兵卒だったチームに、指揮官として戻ってきたわけです。

これが意味することは2つ。1つ目は、年齢とリーダーシップは無関係だということ。2つ目は、年長者の隊員が半年前まで新人だった私のことをよく知っていること。つまり、いきなり上官になっただけで、“リーダー”として認められることはありません。私なりにチームを管理し、導くことで初めてリーダーとして認めてもらえるのです。

4段階目が、私が「8200部隊の教官」に選ばれたときです。次世代の将校を訓練する立場になったのです。そして5段階目が、「予備役」です。兵役義務を終えると、就職したり、大学へ進学したり、結婚したりとそれぞれの道に進みますが、予備役があります。一定の年齢まで、1年に数日ないし数週間、部隊に戻って務めを果たします。これは私の経験にもとづきますが、8200部隊では典型的なキャリアです。このように、8200部隊は他国の情報機関とは構造が異なりますが、細かく分割された無数のピラミッド状の指揮系統から成り立っている巨大な組織なのです。
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文 = 井関庸介

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