井関:テルアビブとエルサレム以外の都市からの起業家ももっと必要との声もよく耳にします。そして、圧倒的に足りていないのはやはり「女性」だとも。とはいえイスラエルの場合、ナフタリ・ベネット首相が組閣した第36次内閣では、経済省、教育省、内務省、運輸省、イノベーション・科学技術省、インフラ・エネルギー・水資源省、科学技術・宇宙省といった主要省庁のトップが全員、女性です。
まだ少ないものの、女性起業家も他国と比べて多いように思えます。反面、日本の惨状はここで改めて語るまでもありません。軍隊で女性指揮官だった立場と経験から見て、どういった点から始めることで、事態を改善できると思いますか。
アリエリ:まず、大臣に関していえば、男女の割合が「50:50」で完全に均等にならない限り、平等とは言えません。テクノロジー業界の状況は、シリコンバレーに似ています。管理職にしても、プログラミング職にしても、女性は全体の35%程度しか占めていません。
起業家とベンチャー投資家(VC)はもっと少ないです。起業家は20%程度でしょうか。その起業家からVCに転身する人が多いことを考えると、投資家における割合はもっと減ります。
井関:イスラエルでは女性が周囲に怯むことなく、自分の意見をはっきりと主張し、男性を向こうに回しても議論で主張する印象があります。軍務を通じて得た体力と自信に起因しているのでしょうか。
アリエリ:兵役はまちがいなく女性に自信を与えています。1948年の建国以来、女性も兵士として戦ってきました。それも時代と共に変化し、今ではいっそう対等になりつつあります。以前は男性の兵役期間は3年、女性は2年でした。今ではほぼ同一で、男性は2.8年、女性は2.7年です。これはとても重要なことです。これにより、女性も要職に就けるようになりますから。
格闘を要する部隊に関しても、かつては男性中心でしたが、潜水艦での従事業務を除いて現在は女性にも開かれています。ほぼすべての部隊に女性が属しており、同じような訓練を受けています。
井関:要件を対等にすることで部署やプロジェクトへの参入障壁を下げ、管理職業務への出世のチャンスを与える――。軍隊に限らず、ふつうの会社も学べることが多そうですね。先ほど、具体的な部隊の話が出ましたが、8200部隊を他部隊から分かつ要因とはどういったものなのでしょうか?
アリエリ:大きく4点あります。1つ目は、「無知を恐れない」こと。8200部隊に加わると、隊員はすぐに「不可能などない。何でもできる」ということに気づかされます。実際、訓練でも「不可能はすべて可能」と教えるのです。
井関:それは具体的には、どのような意図があり、どういった訓練なのですか?
アリエリ:逆説的に聞こえるかもしれませんが、最もシンプルな方法は「兵士に答えられない質問をすること」です。この訓練の目的は、兵士に恥をかかせたり、不安にさせたりすることではなく、「答えを知らないことに慣れさせる」ことにあります。評価の対象にはなりません。「答えがわからない? それなら、今から答えを考えよう」という感覚です。
この方法は直観に反するでしょう。しかし私たちは教育の過程で、「答えを知らないと恥ずかしい、落第してしまう」と無意識に怖がるようになっています。その呪縛から解き放つことが大事なのです。それに人はどうしても、教わったことや、すでに身につけた知識から答えを探そうとしてしまいます。そうではなく、未知の探求を通じて答えを見つけることが重要なのです。