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サイエンス

2025.04.23 19:30

永久凍土の融解でシベリアの「地獄の入り口」が拡大中、直径1kmに

シベリア、ヤマル半島のクレーター(Aleksandr Lutcenko / Shutterstock.com)

シベリア、ヤマル半島のクレーター(Aleksandr Lutcenko / Shutterstock.com)

ロシア・シベリア北東地域にある町バタガイの近郊には、地面がぱっかり割れたような奇妙な穴がある。どんどん拡大しているというこの穴は、人工衛星画像で確認すると、ぎざぎざして黒っぽい。森林が焼かれて出来たように見え、形はオタマジャクシのようだ。

地上に降りてみると、その穴の正体は、巨大な「サーモカルスト(永久凍土が融解と凍結を繰り返してできた凹凸のある穴)」だとわかる。「バタガイカ・クレーター」と名付けられたこの穴は、専門用語で言う「融解侵食地形(メガスランプ)」で、「地獄の入口」と呼ばれることが多い。穴の直径は1km、深さは最深100m。この種のものとしては世界最大で、おまけに年々大きくなっている。

数十年前に発見されたときは、単なる地面の陥没だったが、氷に覆われた古代の地盤がどんどん崩壊するようになった。

穴の拡大に伴って、今まで凍り付いていた歴史が姿を現し始めた。そして、この先に待ち受けているであろう未来も垣間見ることができる。バタガイカ・クレーターは、遠い昔へと続く入口であり、永久凍土でできたタイムマシン、そしてすでに混乱をきたしている気候変動をリアルタイムで示してくれる指標なのだ。

「地獄の入口」とも呼ばれるシベリア北東地域にあるバタガイカ・クレーター。衛星画像(Satellite image (c) 2024 Maxar Technologies/)
「地獄の入口」とも呼ばれるシベリア北東地域にあるバタガイカ・クレーター。衛星画像(Satellite image (c) 2024 Maxar Technologies/)

森林伐採がきっかけで開いた「地獄の入口」

1960年代のこと。当時のソ連は、シベリア北東部を走るチェルスキー山脈周辺で森林伐採を行なった。そして、それまで長いあいだ永久凍土を覆って保護してきた木々を取り除いてしまった。

樹木が、日陰を作ることも地面を覆うこともなくなると、永久凍土層は、以前より多くの太陽放射を吸収するようになった。氷に覆われていた土壌が温まって解け、崩壊したことをきっかけに始まったこの連鎖反応は、現在も続いている。

このプロセスはサーモカルスト形成と呼ばれ、陥没が陥没を呼ぶ状況が生まれた。永久凍土層が融けて浸食が起き、さらに凍土が露出して融け、崩壊がいっそう進むようになったのだ。当初はちょっとした地面のくぼみに過ぎなかったものが、大きな裂け目になるまで広がっていった。

バタガイカ・クレーターは1980年代時点ですでに、驚くほどの大きさになっていた。拡大は現在も続いており、それに伴って、木々に覆われた斜面の浸食が進み、それまで凍っていた土壌が露出し、有機物が放出されている。融解した土壌の量は膨大だ。2024年6月に『Geomorphology』で発表された研究によると、サーモカルスト形成が始まって以降、融解侵食された土地の体積は、全部で3500万立方メートル近くに上る。 

そして、大地がこのように裂け始めたら最後、簡単に閉じる方法はない。

時空を超えた旅ができるクレーター

バタガイカ・クレーターは一見すると、地面にできた深い裂け目、暖かい空気と消滅する氷が残した傷跡にすぎない。しかし、大きく開いた裂け目の内部に降りていくと、そこにあるのは、時間が巻き戻った世界だ。

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翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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