サイエンス

2025.03.28 18:00

融解が進む永久凍土、太古の病原体の復活にどう備えるか

Andrei Stepanov / Shutterstock

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北極圏のツンドラの下には、地球の過去を記録した生物学的タイムカプセルが、数千年前から、ときには数百万年前から、眠り続けている。

ツンドラは、北半球の陸地面積の約15%を占める。そこに保存されているのは氷だけではない。凍土の内部には、太古の有機物、強大な温室効果ガス、そしてはるかに不穏な存在が封じ込められている。つまり、長きにわたって休眠状態にある細菌やウイルスだ。これらは、現代の生命体が一度として遭遇したことがないものだ。

この「天然の冷凍保管庫」の上には、「活動層」と呼ばれる、融解と凍結を毎年繰り返す薄い土壌層があり、北極圏の生態系を支えている。しかし、地球温暖化が加速するなか、この繊細なバランスは崩壊しつつある。数万年にわたって安定を保ってきた永久凍土はいま、猛烈なスピードで融解しており、先史時代の微生物保管庫の扉が開け放たれつつあるのだ。

永久凍土とは何か、なぜ北極圏の生態系に不可欠なのか

永久凍土とは、基本的には少なくとも2年以上にわたって凍結状態を保った土壌、岩石、堆積物のことを指す。しかし北極圏において、永久凍土はただの凍りついた大地ではない。それは、生態系全体の要だ。

永久凍土は、北極圏の天然の地盤として構造の安定を保っており、これがなければ景観全体が崩壊する。北極圏の動植物の多くは、永久凍土の安定を前提として適応している。例えば、表層に根を広げる森林や、ツンドラの季節周期に基づいて渡りをする動物といったものだ。

永久凍土が凍結を保っているかぎり、その上部にある生態系は、通常どおり機能する。しかし、予想外の融解が起こると、その結果は破滅的なものになり得る。

永久凍土の融解は地面を崩落させ、河川経路を変化させ、雪崩を発生させる。そして、カリブーやジャコウウシやホッキョクギツネといった動物たちの生息環境を激変させる。森林全体が地盤沈下し、川が一夜にして流路を変え、湿地が完全に排水されてしまうと、野生動物の食料源は破壊される。こうした不安定な状態がもたらす波及効果は、渡りのパターンを撹乱し、数万年にわたって北極圏で繁栄してきた生物種を脅かす。

次ページ > 永久凍土に潜む「最も不穏な脅威」は、微生物がもたらす死かもしれない

翻訳=的場知之/ガリレオ

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