サイバー企業を生み出すイスラエル国防軍の「8200部隊」とは?

インバル・アリエリ


井関:8200部隊に選抜された際、事前に「スクリーニング(選別審査)」されていることには気づかなかったそうですね。その後、教官としてスクリーニングをする側も経験しています。8200部隊に選ばれるには、どういった資質が求められているのでしょうか。

アリエリ:ちなみに私の頃と違って今の新兵は、8200部隊の審査を受けていることは事前に知っています。その資質の審査基準こそが8200部隊最大の“魔法”です。審査を受けるときは高校在学中の17歳で、軍になど興味なく、友だちと遊び、YouTubeを観るふつうの10代の少年少女にすぎません。それが自然です。もちろん、学歴などは役に立ちません。

井関:学業の優劣と、職場や戦場での能力は完全に別物ですが、最低限の思考力があるかどうかを測るフィルターとして学業の成績を参考にしたりはしないのですか? それとも、候補生が秘める異才のほうを見定めようとしているのでしょうか。

アリエリ:学業は思考力の有無を測る指標になりそうなものですが、貧困家庭で育ったために勉学の環境に恵まれず、成績が悪かった生徒もいます。勉強よりも読書が好きで、学業に身が入らなかった人もいるでしょう。

井関:チャーチルやアインシュタインといった偉人も、学業はイマイチだったとか。

アリエリ:学業の成績にばかり注意を向けてしまうと、そういった才能ある人材を見落としてしまうのです。8200部隊は大きな組織なので、仮に名門校の学業優秀な優等生を片っ端から採用したとしても人員が足りません。

そして、こちらの理由のほうがより重要なのですが、多様で考えが豊かな人材が必要なのです。皆が同じ考え方で、同じアプローチを取るような組織は行き詰まります。例えば、外国語が不可欠な職務の審査を受けているとしましょう。生徒の多くは英語を話せますが、アラビア語話者やペルシア語話者はそこまで数がいません。そして、これをアラビア諸国やイランにアウトソーシングできませんよね。でも、短期間で習得する必要がある。その言語習得力の有無を見極める方法があるのです。例えば、地球外生命体が地球に飛来して自分たちの“言語”でコミュニケーションを取ったとしても、世の中には、ほかの人よりもすばやくその言語構造やパターンを認識できる人たちがいるのです。

井関:2016年の映画『メッセージ(Arrival)』では、言語学者が軍に請われて宇宙人の文字言語の翻訳をしていましたね。

アリエリ:そういった言語習得能力、パターン認識、プログラミングなどで優れた能力を秘める人材をどう特定するか――。ここで言いたいのは、学歴や特別活動などの指標ではなく、むしろ、IDFの“ニーズ”に合わせて能力をもつ人材を発掘するプロセスと、その設計が重要なのです。そして8200部隊に選ばれる人物に必要なのは、学業の成績や知識ではなく、ソフトスキルやポテンシャル、成長意欲といったことのほうなのです。17歳や18歳がもっている知識など所詮は知れていますから。


ホームページ作成ツール「Wix」のアビシャイ・アブラハミCEOも8200部隊の出身だ Getty Images
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文 = 井関庸介

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