サイバー企業を生み出すイスラエル国防軍の「8200部隊」とは?

インバル・アリエリ


井関:8200部隊や81部隊は機密扱いされていましたが、解除後は“ブランド化”しているきらいがあります。8200部隊は巨大な組織なので、多くの職務があることでしょう。8200部隊出身を名乗る多くの起業家から、実際に要職に就いていた実力のある人と、「アレオレ詐欺」的に、組織のブランドを使ってうまく立ち回っている人を識別する方法はあるのでしょうか。

アリエリ:いい質問です。これは、8200部隊の出身者にしかわからないと思います。8200部隊出身を名乗る起業家と面談するとき、機密情報に触れることなく、二つ三つ質問をするだけで、経験談や経歴の真贋を見抜くことが可能です。

一般の会社と同じで、その会社の組織構造を知っているか、どうかですね。仮に、有名企業の製品の開発責任者だったとしても、その会社における位置づけや、外部からの見えかたとは異なる、実際に課せられていた責務などは、内部の人間にしかわからないでしょう。それと同じで、8200部隊の出身者であれば、要職にあったか、閑職にあったか、すぐにわかります。

井関:やはり、外部から見分けるのは簡単ではないということですね。ところで8200部隊をはじめ、IDFは除隊後も予備役として兵役義務が続きます。別々の道へ進んだ同僚との再会や、若い世代との出会いが、新たな人脈づくりやアイデアの創出につながっているのでしょうか。

アリエリ:重要な要因の一つだと思います。8200部隊にとっての成功のカギは、「ダイバーシティ(多様性)」です。多様性は、性別や人種、文化、言語など、いま、世界で浸透しているものもありますが、「世代」や、そこから派生する「知識」といったものもあります。18歳と30歳とでは、育ってきた世界がまったく異なります。別の世代の人が集まることで、相互作用が生まれるのです。それが起業家的なマインドセットにつながり、8200部隊出身者のイノベーションに寄与しているのではないでしょうか。

井関:その多様性もあってか、比較的、自由な印象の強い米国やオーストラリアの起業家からも、「イスラエル人起業家の同調圧力を恐れない姿勢、社会的な枠組みから外れた自由な発想、緊密なネットワークには敵わない」という声をよく聞きます。逆に、イスラエルのスタートアップ・エコシステムが抱えている課題はどういったところにあるのでしょうか?

アリエリ:確かに、イスラエルは外からは比較的、多様な社会だと思われているようです。それでも、ハレーディーム(超正統派ユダヤ教徒)、アラブ系イスラエル人、45歳以上のテクノロジー関連の起業家は、圧倒的に足りていません。課題の一つが、宗教や宗派の事情から兵役を免除されている人たちがテクノロジー・エコシステムに入ってこられない点です。軍で育まれる人脈を築けないからです。テクノロジーの場合は、こうした緊密な人脈を通じて交換される情報や知見が大きな役割を果たしますから。


8200部隊の元教官で、現在は起業家・投資家のアリエリ。3人の子供をもつ母でもある。 Courtesy of the Author
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文 = 井関庸介

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