━━創設者兼会長を務める地政学アドバイザリー企業「ラスムセン・グローバル(Rasmussen Global)」について伺えれば。各国政府や多国籍企業に提言をされていますが、具体的にはどういった活動をされているのでしょうか。例えば、ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領と緊密に連携され、アルメニアとも協力されています。ロシアの脅威、または潜在的な脅威にさらされているこれらの国々が独立を守るために、どのような助言をされるのでしょうか?
ラスムセン:ラスムセン・グローバルは、私が2014年にNATO事務総長を退任した際に設立されました。その目的は、民主主義国家と、民主主義国にある企業が、困難な地政学的状況を乗り越えるのを支援することです。アルメニアは我が社の顧客の一つです(編集部註:2023年3月以来、ラスムセン・グローバルはアルメニア政府に協力している)。同国はロシアに長く支配されてきました。アルメニアの領土には今でもロシアの軍事基地があり、最近までロシア人が国境管理を行っていました。アルメニアは歴史的にロシアに依存してきたのです。現在の政府は他の国々、特にEUなどのより民主的な国々との関係を多様化したいと考えています。私の具体的な役割とは、アルメニア政府に対し、EUとの関係を強化する方法について助言することです。
そしてもちろん、ウクライナにも同じように提言をしています。日本の外務省とも協力していますし、台湾とも協力しています。私が「Front line states(最前線国家)」と呼ぶ、独裁国家と隣接する国々です。主権国家の顧客とは別に、民間企業、防衛企業にも助言をしています。欧州の防衛企業、エネルギー企業、大手宇宙企業、金融機関などです。防衛産業は近年、明らかに成長しているビジネス領域です。
━━デンマークの首相を3期も務められましたね。在任中、製薬会社や医療機器メーカーが集まる「Medicon Valley(メディコンバレー)」のような産業クラスターの構築を試みています。前任者や後任者もこうしたテクノロジーハブを育てることで、デンマーク経済を牽引してきたかと。イスラエルの故シモン・ペレス元大統領は、「イノベーションは平和のための素晴らしい手段である」と述べています。アイデアや製品、サービスを共有することで価値観の違いを超えて協力し合える、と。政策面においてイノベーションをどう位置付けていましたか?
ラスムセン:イノベーションは、現代社会の繁栄に欠かせません。メディコンバレーは、デンマークの首都コペンハーゲンとスウェーデンのマルメ周辺に集積している医療クラスターですが、その他にもさまざまな場所があります。そして実際に今日、ノボ ノルディスク ファーマ(Novo Nordisk)は巨大企業に成長しました(編集部註:2型糖尿病治療薬として開発され、肥満治療薬としても注目を集めるGLP-1受容体作動薬「オゼンピック」の製薬会社)。企業価値で測るなら、現在は欧州で最大級の会社です。これは非常に注目に値します。イノベーションを通じていかに富を生み出せるかの実例です。
現在の欧州の問題の一つは、イノベーションの欠如です。私がデンマーク首相だった時、私たちは民間企業と公共部門両方の研究開発投資を大幅に増加させる目標を掲げました。そこで、政府予算の増加分を政府部門の研究開発に充てました。税制優遇措置や他の方法を通じて、民間企業のイノベーションも促進しました。これは絶対に欠かせません。そのためには、人々がスタートアップに投資し、リスクを負う覚悟をもつ必要もあります。
しかし問題は、欧州は例えば米国と比較して、リスクを避けがちである点です。私たちはイノベーションと開発、そして新技術の活用でさらなる努力をしなければなりません。私が日本の人工知能(AI)開発企業データセクションのシニアアドバイザーに就任した理由でもあります。データセクションが、人工知能とAIセンターの設立に焦点を当てているからです。誰もがそれぞれ、イノベーションを刺激するためにできることをすべきなのではないでしょうか。