〝理路整然と間違う〟よりも〝大まかに正しい〟方がいい
藤吉:日本の債務だけじゃなくて、各国で比較したチャートは珍しいですね。阿部:そうなんですよ。どこにもなかったから自分で作ったんですが、これを見ると、かつて、今の日本と同じ水準──対GDP費で約270%──にまで債務が膨らんだ国があるのがわかります。第二次世界大戦直後のイギリスです。
藤吉:膨らんだ理由は戦費調達のための公債発行でしたよね。
阿部:そこが日本とはちょっと違うんですが、面白いのは、その後、イギリスは30年かけてこの債務を60%程度にまで圧縮するんです。なぜなら第二次大戦終了後の世界的なインフレの影響で、債務の多くを占めていた国債が目減りしていったからです。
藤吉:物価が上がると国の債務は減っていくんですね。
阿部:そうです。これと同じことが今、日本で起きつつあります。
藤吉:実際にいろんなものの値段が上がっていますよね。
阿部:マスコミは値上げで生活が苦しくなるという報道ばかりですが、国の債務に目を向ければ、実はものすごくポジティブな兆候とも言える。インフレで公的な債務が減り始めると、日本に対する期待成長率が上がります。
そうすると、さらに物価が上がって、債務の減りも加速していく──こういうプロセスのことをジョージ・ソロスは「再帰的」と表現しました。つまり何かが起こって、それによって起きる現実の変化が、次なる変化を促していく。すべてがプラスに循環していくことを「自己強化性を持つ」と言ったんです。
藤吉:今、日本がそのプロセスに入っている、と。
阿部:僕はそう思ってます。大前提として、未来のことは誰にもわからない。僕の経験から言って、理路整然と未来を予測しようとすればすれほど、間違うんです。
ものすごく緻密な計算を積み重ねて「予想されるインフレ率は〇%……」とやるよりも、〝デフレのピークは通り過ぎた〟と大まかに掴む方がいい。未来のことは〝理路整然と間違う〟よりも、〝大まかに正しい〟ことが大切だと思うんです。