コンビニエンスストアというイノベーション
阿部:シュンペーターは「インベンション(発明)とイノベーション(革新)は違う」と言っていますが、日本人というのは本質的にイノベーターだと思うんです。中国から漢字を採り入れて、仮名を作り出して、「源氏物語」のような日本独自の文学を生んだことから始まって、豊田喜一郎がフォードの工場を見てトヨタ生産方式を生み出したり、ソニーがテープレコーダーからウォークマンを作ったり、すべてイノベーションの歴史です。藤吉:常にいろんなものを外から輸入してきて、混ぜ合わせて社会実装して拡大していくというパターンですね。考えてみれば、例えば「セブン・イレブン」に代表されるコンビニエンスストアなんかも日本に入ってきてから、独自の進化を遂げましたよね。
阿部:そうそう、あれもイノベーションですよね。そもそも僕らの時代は、食事といえば、家で食べるか、どこか店で食べる外食しかなかった。そこでコンビニの人たちは「中食」という言葉を使ったんですよ。つまり既に調理されたものを店に並べて、客はそれを買って家で食べるというスタイルですね。
今の人にとってはごく当たり前の行動ですが、当初は「コンビニのおにぎりなんて絶対売れない」って言われてたんですよ。
藤吉:僕が衝撃を受けたのは、お茶ですね。80年代の半ばだったでしょうか、コンビニの店頭で缶入りのお茶が売られ始めて、「お茶を缶で飲むのか」と驚いた記憶があります。
阿部:当時は「日本人は絶対にお茶を買わない」という議論が真剣にされていたくらいですから。家に帰れば飲めるお茶にお金を払うわけがない、と。ところが今やみんな、ごく当たり前にコンビニでおにぎりやお茶を買っているわけです。日本人のライフスタイルを変えるほどの新たな市場を生み出したわけですから、やはり日本におけるコンビニの進化はイノベーションだったといえると思います。