理路整然と間違うよりも「大まかに正しい」ほうがいい データから未来を見通す方法

投資先の企業をどうやって探すのか?

藤吉:今日、もうひとつうかがいたかったのは、投資家として阿部さんがどうやって投資先を選び、ポートフォリオを組んでいるのか、ということなんです。例えば先ほど話に出たようなAIだったりゲノム解析だったりというある種のイノベーションに関わる分野は、ポートフォリオを作るうえで意識されているんですか?
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阿部:AIとかゲノム解析をやってる企業だからポートフォリオに入れよう、という風には考えないですね。僕らは投資家なんでやっぱり株価、とくにキャッシュフローを見る。どんな面白いことをやっている会社でも、それを貨幣価値に換算できなければ、持続可能性がない。ずっと飲まず食わずでは研究は続けられませんから。だから持続可能なだけのキャッシュフローが生み出されていることが大事になる。

藤吉:つまり「この企業は画期的なゲノムを研究しているから」というだけでは投資しない?

阿部:そうはならないですね。逆なんです。例えばROE(自己資本利益率:企業が自己資本に対してどれだけ利益を上げているかを示す指標)で20%とか、キャッシュフローが出ている企業があったら、「どうしてこんなに儲かっているのかな」と見ていって、「ああ、ゲノムをやっているのか」と納得するわけです。
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藤吉:逆なんですね。ポートフォリオといえば先ごろ、ウォーレン・バフェットが率いる「バークシャ・ハサウェイ」の最新のポートフォリオが公開されましたが、保有していたApple株の約半分を売っていたことが話題になりました。

阿部:今、バリュエーション(企業価値)がITバブルとか日本のバブル期と同じくらい高くなっているからでしょうね。上がった分、売ったわけです。

バフェットが投資において重視しているのは、何よりもまずROEです。それから彼の言葉を借りれば「深い堀を持っていること」。

藤吉:どういう意味ですか。

阿部:英語では〝moet(堀)〟ですね。他の企業が真似できない、その企業独自の強みや技術を指します。つまり参入障壁が高いということですね。バフェット銘柄として有名なAppleとか、コカ・コーラは、まさに「深い堀」を持っていますよね。

藤吉:〝技の領域〟ですね。

阿部:それも他社が真似したくても真似できない技術です。例えばトヨタはハイブリッド車の特許を全部公開しているんですよ。けれどそれを見ても、他の国や他社ではトヨタと同じようには作れない。

藤吉:圧倒的な技術力のエッジを持っているんですね。

阿部:結局、成長する企業というのは、すべからく「まだ誰も掘り出していなかったキャシュフローの泉」を見つけているんです。

トヨタでいえば、トヨタ生産システムがそうですし、ユニクロでいえば、ファッションを従来の小売業ではなく製造業として定義し直したことが、それにあたります。だから僕らは投資家として常に「その経営者がどんな泉を見つけたのか」に注目して見ています。

藤吉:なるほど。

阿部:それから、その市場に拡張性があるかどうか。例えば明治時代の初期にものすごく優秀な下駄の職人がいたとして、その技術力で下駄を作り続けても、これは「市場に拡張性がない」ということになります。しかし、この職人が「これからの時代は靴だ」と切り替えて靴を作り始めたら、これは「市場に拡張性がある」ということになる。

ただ、成長する市場には参入する企業も増えます。そこで重要になってくるのが経営者の質なんです。激しい競争を勝ち抜くだけの戦略的なビジョンとリーダーシップを兼ね備えた誠実で魅力的なリーダーがいるかどうか。

藤吉:具体的に経営者のどういうポイントを見ているんですか。

阿部:よく聞かれるんですが、なかなか一言で言うのは難しいんです。あえて言うなら、人柄というか、誠実さというか、そこは必ず見ます。経営者が嘘やごまかしを言うような人だったら僕は買いませんね。その辺の感覚はとにかくたくさん経営者に会って、磨くしかないんですよね。

text by Hidenori Ito/ photograph by Kei Onaka

連載

市場の波をつかむ12の方法 スパークス代表・阿部修平×Forbes JAPAN 編集長・藤吉雅春

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