例えば、iPhone。そのデザインや操作性に惹かれて購入を決めた人もいるだろう。そこから、アップル共同創業者のスティーブ・ジョブズを連想する人もいるはずだ。インダストリアルデザイン担当責任者として、そのジョブズを支えたジョナサン・アイブも頭に浮かぶかもしれない。あるいは、“iPodの父”ことトニー・ファデルだろうか。
だが、アップルのソフトウェアエンジニア兼デザイナーとしてOS(基本ソフト)の「Safari」や、iPhoneの開発に関わったケン・コシエンダは、自著『Creative Selection Apple 創造を生む力』(邦訳:サンマーク出版刊)の中でこう振り返っている。「私たちはチームの一員として、問題の特定、設計、デモ(試作レビュー)、製品出荷と一歩一歩前に進み、前途有望なコンセプトをピックアップしては改善方法を模索した」。
要するに、最終製品とはさまざまな人とのコラボレーションを経て生まれるものであり、その発案や設計から意匠に至るまで、「デザイン」の過程はじつに複雑なのだ。一見、属人性が強そうなデザインも、どんな仕事もそうであるように、ほとんどの場合、協業することで磨かれる。真の成功のカギは、「コラボレーション」にある。
アップルのジョブズのように、方向性を定め品質管理する役割を担う人は必要かもしれないが、フィールドの理屈に従えば、「デザイナー」の数は増えるはずだ。事実、その数は彼らの予想を超えて増え、開発者やプロダクト・マネジャー、営業職など、デザイナーたちと業務で関わる人も急増している。デザインが製品の成否に関係してくることが明らかになり、自ずとデザインを中心としたエコシステム(生態系)が育まれ、それが新たな循環を生み出しているのだ。