ところがFigJamと並行して開発していたにもかかわらず、開発モードのローンチは想定よりも時間がかかってしまう。それは、自社プラットフィーム上で開発者たちが思うように製品を作れていない現状に、フィールドたちが気づいたからである。直感的でなく、使い勝手が悪い。開発者たちがインターフェイスに馴染めずにいたのだ。とはいえ、開発者たちが「使いにくい」とも「使いこなせない」とも言うことはない。再び、“自動車王”の金言を実践する時が訪れた。「私たちは、開発者たちにとって真新しいものを作らなければならなかった」と、フィールドは話す。
「ひたすら自分たちの行動を観察して学びました。それにより開発モードの基礎ができて、次にユーザーが何を求めているのかを研究できたのです。その反応を見て、また作り直す。ユーザーたちがプラットフォームをどう使うか、人類学者になったつもりで徹底的に観察しなければなりませんでした」
アイデア出しをするための「FigJam」、デザインを表現するための「Figmaデザイン」、デザインをコーディングで実現するための「開発モード」ときたら、ユーザーからすれば、かたちになった製品・サービスをFigma上で発表し、共有する場が欲しくなるはずだ。
そのためにあるのが、2019年に立ち上げたマーケットプレイス「Figmaコミュニティ(Figma Community)」である。ここでは、さまざまなデザイナーが制作した有料・無料のUIキットやワイヤーフレーム・テンプレート、プラグイン、チュートリアルなどが公開されており、ユーザーは入手できる。2023年に大幅なアップグレードがされ、製品の有料・無料の区分が明確になったほか、プラットフォーム上での決済が可能になった。
アップルのApp Storeを思わせるこのマーケットプレイスは収益の柱になりそうだが、アップルのような閉鎖的なエコシステム(生態系)にする考えはない、とフィールドは語る。ウェブブラウザで使えるFigmaらしく「オープンな空間」を維持し、今も提携しているAtlassian(アトラシアン)やLinea(リネア)、GitHub(ギットハブ)など、他の企業と緊密に連携してエコシステムを築く「ベスト・オブ・ブリード(Best of Breed)」のビジネスモデルを取るという。