スタートアップ

2024.06.24 18:15

“ユニコーン”に戻ったFigmaが描く「製品開発の未来」

20歳の時に共同創業した「Figma(フィグマ)」を率いるディラン・フィールドCEO Kohichi Ogasahara

とはいえ、Figmaにとって簡単な道のりではなかった。同社の創業は2012年だが、最初の製品のベータ版をローンチしたのが2015年。一般公開されたGA版に至っては2016年10月である。創業当初は斬新だった構想も、ウェブアプリや、クラウドの概念が浸透するにつれて世の中に受け入れられるようになっており、それはライバル会社の台頭を意味していた。
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「起業家なのに、製品をローンチできていないことに焦りを感じていないのなら、何かを間違えているということなのです。会社を立ち上げてからすでに3年で、まだ製品を立ち上げていなかったから、とても心配していましたよ」(フィールド)

しかし、それ以上にフィールドを悩ませたのは、「そもそも、この製品は求められているのか?」という、Figmaの存在意義や、未来にまで関わる根源的な疑念だった。2015年といえば、iPhoneが発売されてはや8年。App Storeはとっくに拡充され、その競合のAndroidスマートフォンも広がりを見せていた。ウェブアプリも急増していた。今後、ウェブ上でUI(ユーザーインターフェース)やアプリを協力しながらデザインするツールの需要は増える──。フィールドはそう確信していた。ところが、肝心のデザイナーたちの反応が芳しくなかったのだ。

「それが未来だと信じていたのに、ふと考えることがありました。『もし、ほかの人たちがそう考えていたなかったとしたら?』。同じファイルを使って編集できたら便利かどうか、ひたすらデザイナーに聞きました。すると、役に立つとは思えない、という答えが返ってくるわけです。たまに、すごく役立つはずだ、と言ってくれる人もいました。つまり、とても想像力を要する製品だったわけです。『何が欲しいかと尋ねたら、人は“もっと速い馬”と答えただろう』というヘンリー・フォードの言葉通りです。それが、Figmaの置かれた状況でした」(フィールド)
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2015年にFigmaデザインのベータ版をローンチした当初も、ウェブ上では「これがデザインの未来なら転職するよ」「ラクダは委員会によってデザインされた馬(船頭多くして船山に登る)ということわざがあるくらいだからな」と揶揄する声もあった。ある人気デザイナーは、“デザインパーティー”を開き、数百人のユーザーがFigmaデザイン上でインターネットミームを作ったり、ふざけたりしていった。サーバーが落ちないよう、共同創業者のウォレスは連日の徹夜を余儀なくされたという。

もっとも、フィールドは「ユーザーたちに『ひょっとして、これは役に立つツールなのかもしれない』と思ってもらえたのではないか」と振り返る。結果的にFigmaにとって効果的なマーケティングとなったこの騒動は、理想とは違えども、ウェブ上で大勢のユーザーたちがモノを作ったり、共有し合ったりする点では、本質的にはフィールドが目指していた方向性に近いからだ。彼は「いつだって、デザイナーたちのコミュニティの重要性を信じてきた」と話す。
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文 = 井関庸介

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