日本復活のカギは「道具」にあり!
阿部:ただ、「普通になる」といっても、中国が作っていたものを日本が作るという意味ではありません。より付加価値が高く、価格を上げられるものを日本が新たに作るんです。藤吉:具体的にはどういうものでしょうか。
阿部:ここに1950年代以降の主要耐久消費財、つまりテレビや冷蔵庫、最近だとスマホなんかの世帯普及率の変化を示したグラフがあります。これを見れば、今やあらゆる家電が普及しきった現状が一目瞭然です。
その過程で、かつては日本で作っていたテレビなんかは中国へと移管されたわけですが、中国でも、もうテレビは作れないんです。なぜなら作っても売れないし、作れば作るほど値段が下がって儲からなくなってしまったから。
藤吉:もう売るものがないんですね。
阿部:そう。直近のビッグプロダクトであるスマートフォンにしても、今や世界で70億台以上あります。じゃあ、その次に来る高付加価値な商品とは何か。
それはまだ見えてこないけど、ひとつ分かっていることは、この先、日本は世界に先駆けて人口が減り、労働力が不足するだろう、と。放っておくと、どんどんコストは上がっていく。この宿命的な課題を解決する新しい「道具」を提供できるかどうか。ここが日本復活のカギになるはずです。
藤吉:復活のカギが「道具」、というのは興味深いです。
阿部:「道具」といっても、これまでのような「ソフト」ではありません。実際の「モノ」が新たなブレイクスルーを介在するんじゃないかと思います。
藤吉:なぜ「ソフト」ではなく「モノ」なんでしょうか。
阿部:端的にいえば、日本以外にモノを作れる国がないからです。この30年のもうひとつ大きな変化として、世界中で「モノづくり」をできる人材がいなくなっちゃった。その中にあって、日本だけが「モノづくり」ができる態勢を残しているんです。
世界中が〝ポスト・スマホ〟を求めている
阿部:このグラフは各国の人口に占める生産従事者、つまり「モノづくり」をする人の割合を示しています。中国は比較的多いですが、ほとんどが衣料や家電など低付加価値商品です。ドイツも多いですが、これは自動車ですね。ただ自動車も普及しきっているので、業界としてはこの先、厳しい。
対して日本の「モノづくり」従事者の割合は徐々に下がってはいるけど、他と比べるとまだ上位ですよね。悲惨なのはイギリスです。
藤吉:モノづくりしている人がほとんどいないんですね。
阿部:アメリカやフランスも同様ですが、これらの国はもう消費するだけの国になってしまったということです。
藤吉:世界中から「モノづくり」が消えたのは、グローバル化とデジタル化の波によって、ということでしょうか。
阿部:いわゆる「持たない」戦略ですよね。つまり経営戦略とかソフト面は本国でやるけど、実際の製品、つまりモノは海外──その最たるものが中国でした──に外注するという戦略は、確かにデフレ時代には有効でした。
アメリカなんかは2000年ごろから、携帯電話のような既にみんなが持っているデバイスにソフトを載せて価値を生むことをやり出しましたよね。その潮流に乗って「GAFA」が出てきた。
藤吉:その結果、もうスマホに載せられるソフトはすべて載せきっている状態ですし、デバイス同士の連携も繋げるものはすべて繋いでしまった感もありますよね。
阿部:要は、世界中が〝ポスト・スマホ〟も求めている。つまり新しいニーズのもとに作られる新たなデバイスですね。そこで日本の「モノづくり」が再び脚光を浴びる可能性はあると思います。