「日本株は高すぎる」とリンチは言った。
藤吉:バリュー投資は、グロース投資でバブルが弾けた反動で出てきたんですね。阿部:そうです。だから、「バリュー投資」のバイブルとなったベン・グレアムの『賢明なる投資家』は、大恐慌時代を経た1940年代に出版されています。
実際に大暴落を経験すると市場は株価を割安に放置するので、バリュー投資の手法に則って投資をすれば、かなり利益が出たんです。
このグレアムの理論に傾倒したのが、バフェットであり、リンチもその系譜に連なります。ですから僕がいた頃の1980年代のアメリカにおけるスターインベスターというのは、リンチを筆頭に、みな「バリュー投資」の申し子のような人たちだったんです。
藤吉:当時『Forbes JAPAN』でピーター・リンチを取り上げているんですけど、その投資術についてこう書いてあります。〈秘訣は、時系列を見て株価収益率が低い株式を狙い、急成長企業を避けて、市場予測を無視すること〉。
阿部:非常に手堅いというか、保守的な投資手法ですよね。で、そのリンチが私によく言っていたのは、「シュー、今の日本株は高すぎる」ということでした。確かに当時日本は世界の工場として企業の利益成長がすごく高い成長市場でした。日本市場の平均PERは30倍とか40倍でアメリカ株の平均PERは10倍台でした。世界一高い株式市場だったと言ってもいい。
藤吉:どういう背景でそうなったんですか?
阿部:簡単に言うと、日本の成長性、つまりGDPの伸びがアメリカよりも高かったということ。さらにプラザ合意の前ですから、1ドル=240円という超円安で、輸出がものすごく伸びていたこともあります。
そういう背景もあって、アメリカでも「日本人ってちょっと凄いな」と思われ始めた時期でもありました。
けれどリンチは私に「こんなに割高な日本株を買うつもりはない。もし君が私に何か日本株を勧めたいというなら、こういう視点で探してきてほしい」と言われました。つまり、企業のバランスシートを精査して、リンチが示した基準に適合する株があったら教えてくれ、と。
言わば、僕をアナリストのように使ってくれたんです。このときに、彼に習った企業のバランスシートの重要性など投資分析の基本は、今でも僕の頭の中にあって、スパークスの社員に対しても同じことを言ってます。