マーケット

2024.05.24 15:30

利益の源泉はいつも「革新的な手法」ブラックストーンが語る世界制覇の戦略

Forbesのイベントに出席するブラックストーンのジョナサン・グレイCOO(Taylor Hill / Getty Images)

創業から間もなく40年。ウォール街からPE投資を浸透させてきたブラックストーン。米国を飛び出して世界各地に眠る資産を呼び起こし、ビジネスを成長させている。


企業の売買を繰り返すだけでなく、買収した会社を育てるなど、投資手法の革新によってBlackstone(ブラックストーン)を世界最大級のオルタナティブ投資運用会社に育て上げた創業者兼CEOのスティーブン・シュワルツマン。彼と、その後継者と目されるジョナサン・グレイCOOは今、日本を含む世界の潜在的な市場を見据えている。

2023年9月、未公開株(PE)投資会社大手であるブラックストーンの創業者兼最高経営責任者(CEO)でビリオネアのスティーブン・シュワルツマンは、パリで同社の新しい約2400平方メートルのオフィスの開業を祝うパーティに出席していた。18世紀の美しい建物の中庭で談笑する彼の隣には、ブラックストーン・フランスの会長で元在英国フランス大使のジェラール・エレラ。76歳のシュワルツマンは、前日にもドイツのフランクフルトで約1300平方メートルのオフィスの開所式に臨んだばかりだった。

「これまでにもオフィスのオープニングには何度も立ち会っていますが、最近はさらに胸が躍るようになりました」(シュワルツマン)

同社は現在、世界各地に17の拠点を構え、わずか5年で海外の人員数を2倍以上に増やすなど、世界的な事業拡大を進めている。ジョナサン・グレイ社長兼最高執行責任者(COO)は常にどこかへ出張しており、毎週月曜日に行われる全社会議の際にだけ本社のあるニューヨークにいる状態だ。シュワルツマンがパリにいたときも、グレイはカナダのトロントへの移動中で、その直後にはブラックストーン・シンガポールを訪問した。ニューヨークにいても、夜明け前後に会社まで歩きながら、ムンバイにいる部下たちと話をするのがほぼ日課になっている。

インドは重要だ。インドでブラックストーンは40の会社を保有し、最大の商業不動産事業者になっている。同社が最も高い業績をあげている市場もインドで、23年5月にはインド最大のショッピングモール運営事業者ネクサスを、19億ドルの不動産投資信託(REIT)を通じて上場させた。

ブラックストーンが海外でこうした「電撃戦」を展開しているのは、もうけが見込めるからだ。米国の機関投資家はすでに25%以上の資金をPEファンドに振り向けており、現状以上の投資はあまり考えていない。しかし世界的に見ると、プライベート・アセット(未公開資産)投資は始まったばかり。途方もない商機がある。企業分析プラットフォームのキャピタルIQによると、投資対象になりうる企業の86%は、収益2億5000万ドル以上の未上場企業が占めている。さらにブラックストーンの試算によれば、個人投資家の資産は世界全体で80兆ドルにも上り、大部分は欧州やアジアで眠っている。

シュワルツマンの保有資産額は現在380億ドルほど。彼が完成に一役買った旧来のレバレッジド・バイアウト(LBO)の世界では、革命が起こっている。米国の従来のPE投資戦略は、大手機関投資家から資金を調達してパッとしない企業を買収。多額の借り入れの後、コスト削減と資本構成を変更して手っ取り早くもうけるというものだった。それが滅ぶか、よくても低成長ビジネスとなりつつある。
次ページ > オルタナティブ投資の時代

文=セルゲイ・クレブニコフ、マット・シフリン 写真=グレリン・ブラスク 翻訳=木村理恵 編集=森 裕子

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事