「見えるもの」を通して「この先の10年」を予測する 

「儲からなくても切り捨てない」日本企業

藤吉:どうして日本には「モノづくり」の土壌が残ったんでしょうか。
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阿部:「儲からない部門があっても、切り捨てない。極力、そこに関わる技術と人を維持する」という日本企業の特性によるものだと思います。

例えば三菱電機です。僕がアナリストをしていた80年代ごろ、三菱電機といえばテレビとかの白物家電を作る会社でした。そのうちだんだん中国に押されて、日本企業では一番最初に家電から撤退しましたが、一方で、もっと根幹的な技術を持っていました。

例えば電力会社と組んで発電所を作るインフラ事業をやったり、半導体を使って空調もやっていた。そうした根幹的な技術に人をしっかり残して維持したんです。その結果、今、アメリカで空調メーカーといえば〝MITSUBISHI〟の名前が真っ先に上がります。
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藤吉:そうなんですね。

阿部:僕は半導体のアナリストだったんですが、やっぱり半導体って、空調にも、車にも使われるから、絶対不可欠なんですよね。

日本もかつては「半導体大国」と呼ばれて、その後、衰退しましたが、ここに来て、また半導体が日本に戻ってきてますよね。日本に半導体の技術と人が残っていたから、戻ってきたんです。

それでいえば、三菱重工などは日本的経営を体現してきた代表的な企業と言えるかもしれません。

藤吉:三菱重工はどんな技術を持っているんですか。

阿部:例えばガスタービンですね。こういうものは欧米の企業はまず残していない。この20~30年で原油価格が低下したので、割に合わないガスタービンなんかは真っ先に切り捨てちゃったからです。

でも三菱重工は、儲からなくても切り捨てなかった。技術者を守り続けたから、その技術がちゃんと今も継承されているんです。その結果、昨今のCO2の削減の世界的な潮流の中で、環境への負荷が少ないガスタービンが再注目を集めています。

藤吉:かつて重厚長大型の日本企業に対して「未だに国内でモノづくりをするなんてナンセンスだ」という批判がありました。けれど今、その〝一周遅れ〟が強みになっているのは面白いですね。

阿部:「失われた30年」を経て、これから日本の得意な領域に入るんです。日本という国は、本質的にはインベンター(Inventor=発明家・創造者)じゃなくて、イノベーター(Innovator=革新者。新たに登場した商品やアイデアを積極的に導入する人)なんですよ。だから、これまでのプロダクトイノベーションが〝賞味期限切れ〟となったこの30年は特に苦しかった。

けれど、次なる新たなデバイスが日本から生まれれば、そこからは日本の独壇場になる可能性さえあると思います。

つまり、新たなデジタル技術をモノに組み込んで高付加価値製品を生み出すイノベーション、こうしたデジタルとモノの新結合を実現することができるのは「モノづくりを捨てなかった日本」だからこそできることだと思うのです。
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text by Hidenori Ito/ photograph by Kei Onaka

連載

市場の波をつかむ12の方法 スパークス代表・阿部修平×Forbes JAPAN 編集長・藤吉雅春

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