「見えるもの」を通して「この先の10年」を予測する 

〝日本財政は前人未踏の危機〟は本当か?

阿部:ただこういう話をすると、必ず「でも今の日本の財政は危機的な状況にあるから、そんな余力はない」ということを言い出す人がいるんですよ。
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藤吉:いますね。

阿部:ただ、僕は「それはちょっと違うんじゃないか」と思っているんです。

ここに1900年から2030年までのスパンで、各国の対GDP比の公的債務の推移を示したグラフがあります。 
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※2022 年以降の数字は IMF の推定値。US=アメリカ、FR=フランス、UK=イギリス、GR=ドイツ 出典:IMF,SPARX

これを見ると日本の現時点での公的債務は対GDP比で270%に達しています。「これは前人未踏の数字で、この先、どうなるか見通しが立たない」と日本の学者の方々は仰っていますね。

でも、このグラフを見ると過去に、今の日本と同じ状況になった国があることに気付きます。1945年のイギリスです。

藤吉:本当ですね。

阿部:イギリスの場合、第一次大戦の始まった1914年から第二次大戦の終わる1945年までの30年間で公的債務がじわじわと増えて対GDP比で現在の日本と同じ270%に達しています。つまりこれは戦費調達のための公債発行ですね。

けれど第二次大戦終了後の世界的なインフレの影響で、この270%の債務が1975年には60%にまで激減していく。債務というのは国債がほとんどなので、基本的にはインフレになれば目減りするわけです。

で、面白いことに日本も1990年から2020年までイギリスと同じく30年間かけて公的債務を膨らませています。この30年の大半はデフレの期間と重なります。デフレのときは、財政に依存するしかない。実際、この間、日本ほどではないにしても各国、債務は膨らんでいます。

藤吉:日本が突出して債務が多いのはなぜですか。

阿部:それは先ほども言ったように成長率が0.9%という異常事態に陥っていたので、財政で補填すべき幅が大きかったからですね。けれどもそのおかげでこの間も国民の間から「苦しい」という声は上がらなかったですよね。

藤吉:そうですね。

阿部:それは物価も上がらなかったからです。で、ようやく今、トンネルの出口が見えてきた。

今後は円安の影響もあって、物価は上がっていくでしょう。そうなれば給料も上がっていく。成長率が0.9%に押さえられてきた分、今後、上がっていく余地が最も大きいのは日本だ、という見方もできる。

そしてイギリスと同じくインフレになれば、日本の債務は一気に圧縮されていく──歴史を振り返ると何事もちゃんとヒントがあるんです。

藤吉:阿部さんの話を伺っていると、すべて目に見える数字やグラフを分析することで、〝この先の10年〟を予測できるんだということがよくわかります。これはまさに「分かること」に基づいて考える「バリュー投資」の思考法ですね。

阿部:そうなんです。「バリュー投資」の大前提は、「先のことは分からない」です。だからこそ徹底的に「分かること」を調べる。

現場に行って、企業や起業家たちが今、何を考えていて、何をやろうとしているのかを自分の目で見る。さらに時間軸を過去に遡って、歴史の中に現在と未来のヒントを探ることも、とても大事だと僕は思います。

text by Hidenori Ito/ photograph by Kei Onaka

連載

市場の波をつかむ12の方法 スパークス代表・阿部修平×Forbes JAPAN 編集長・藤吉雅春

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