「見えるもの」を通して「この先の10年」を予測する 

「失われた30年」とは何だったのか?

藤吉:今の日本でもまさに株高という現象が起きているわけですが、一方で「これまでが低すぎた」という声もあります。日本経済については「失われた30年」ということがずっと言われてきましたが、阿部さんは、どうご覧になっているのですか?
advertisement

阿部:まず、この30年というのは非常に特異な30年だった、という認識が僕にはあります。この間、起こった最も重要な変化は「中国の台頭と日本の凋落」です。

ここに1990年から2022年までの約30年間で、各国のGDPが世界全体の何%を占めていたかを示したグラフがあります。90年はアメリカが26%、日本が14%、中国はわずか2%でした。

ところが2022年になるとアメリカは25%を維持しますが──30年間世界経済の4分の1を占め続けるのがアメリカの凄さです──日本は4%にまで下がり、代わりに中国が18%を占めるようなっています。この間の名目成長率の平均でいえば、アメリカは4.5%、中国は12.3%、日本に至ってはわずか0.9%です。
advertisement

※Europe4:ドイツ、イギリス、フランス、イタリア4カ国 出典:IMF,SPARX

※Europe4:ドイツ、イギリス、フランス、イタリア4カ国 出典:IMF,SPARX


藤吉
:まさに「失われた30年」と言われる所以ですね。

阿部:注目すべきは日中の成長率です。日本の0.9%も中国の12.3%も本来ありえない数字、つまり異常値だと僕は認識しています。特に日本の0.9%というのは、近代国家の成長率としては、産業革命以前まで遡っても、まずありえない。世界経済・産業の歴史上、それほど異常なことが起きたのがこの30年だった、とも言えます。

藤吉:一方で、12.9%を誇った中国経済も、ここに来て失速の兆候が顕著ですね。

阿部:僕は、投資の師匠であるソロスから「異常なことは普通になる」と教えられてきました。またリンチからは「分からない未来のことを予測してはいけない」とも習いました。だから「異常値が元に戻ったらどうなるか?」をずっと考えているんです。

どこが中国の穴を埋めるのか?

阿部:例えば中国の成長率が12%から、3~4%という普通の数字に戻ったらどうなるのか。ざっと計算すると世界経済から中国が稼いできた約200兆円分が消えます。それでも世界全体で現状の4%程度の成長率を維持するとしたら、この200兆円分をどこかが穴埋めしないといけない。

例えばインドとかインドネシアのような労働力が安い国はその候補のひとつでしょう。でも、これらの国が中国の穴を埋められるかというと、僕は難しいと思う。

藤吉:それはなぜですか?

阿部:圧倒的に資本が足りないからです。中国の場合は、かつてそのGDPが世界の2%に過ぎなかった頃に、この国に資本を投下し、工場を建設し、モノづくりのノウハウを伝えた日本という存在がありました。また日本から伝えられたノウハウを受け入れるだけの教育水準や識字率といった基礎的なリテラシーが受け入れる中国側にもあった。だから、その後の爆発的な成長に繋がったんです。

では、かつての日本のように、今の中国がインドやインドネシアに資本とノウハウを投下したとして、爆発的な経済成長に導けるかというと、ことはそう簡単じゃない。受け入れ側のリテラシーがかつての中国ほどの水準にはないからです。

むしろ中国の穴を埋める可能性があるとすれば、実は日本なんじゃないか。日本がこの30年の異常な状態を脱して「普通」になれば、埋まるんじゃないかと考えているんです。

藤吉:それはすごく面白いですね!
次ページ > 日本復活のカギは「道具」にあり!

text by Hidenori Ito/ photograph by Kei Onaka

連載

市場の波をつかむ12の方法 スパークス代表・阿部修平×Forbes JAPAN 編集長・藤吉雅春

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事