レオパルト2の直近の損失でも乗員は生き延びている。ウクライナ東部で10月下旬、ロシア軍の歩兵が放った対戦車擲弾(てきだん)がレオパルト2A6の側面の薄い装甲に命中した。エンジンが損傷し、ディーゼル燃料が流れ出して火災が起こり、戦車も燃え上がった。だが、弾薬はコックオフしなかったとみられ、乗員4人は全員脱出している。
乗員が戦車の損失を生き延びるというのは、ただ単に命が助かってよかったというだけの話ではない。生き残ることで、その戦車兵がこれまでに積んだ訓練や経験も保たれる。これは軍全体の利益になる。
ウクライナは近代的な戦車の調達に苦慮してきたが、訓練を受けた戦車兵の確保はそれ以上に難しい。西側製戦車に乗り込むウクライナの兵士は、英国やスウェーデン、ドイツ、ポーランドといった外国で、数カ月かけて使い方を学んできた。
M1は、チャレンジャー2やレオパルト2にも増してウクライナの戦車兵を守ってくれるはずだ。それによって、ウクライナ軍の戦車部隊の経験はさらに深まっていくだろう。オーストラリアの退役陸軍少将ミック・ライアンは、米国やドイツによる装甲車両の供与は「ウクライナの兵士の戦闘力を引き上げ、ウクライナの自信と士気を高めることにもなる」と述べている。
対照的に、ロシア軍の戦車部隊では人員不足に拍車がかかっている。ロシアの戦車兵は戦車の中で次々に死んでいっている。ロシアは老朽化した戦車を何千両も再就役させ、新しい戦車を何百両と製造しているが、それと並行して1両につき最低3人の戦車兵を訓練しなくてはならない。
ロシア軍もウクライナ軍と同様に、新しい戦力を急いで投入する必要に迫られている。しかしロシア軍の場合、ほとんど訓練を行わず代わりの戦車兵を送り込んだことが一度ならずある。たとえば、ロシア軍の第1戦車連隊は2022年後半にそうした残酷な仕打ちに遭っている。
こうした未熟な戦車兵たちも補充相手の戦車兵と同じく、戦車が被弾した場合に助かる見込みは薄い。
ロシア軍は、青二才といっていいような戦車部隊で押し切ろうとしている。だがいずれ、ウクライナ軍の百戦錬磨の戦車部隊とまみえることになるだろう。
乗り込んでいる歴戦のつわものたちは、攻撃を受けて損傷した戦車から脱出した経験が一度ならずあるだろう。M1のように、一部の装備を犠牲にして乗員の命を守る設計にした戦車から。
(forbes.com 原文)