これは、ウクライナで就役している米国製M1エイブラムス戦車の姿が捉えられた初の写真だ。
撮影された時期や場所はわからない。ただ、その泥は、じめじめした冬の到来を示しているように見える。だとすると、撮影されたのはつい最近だろう。
ウクライナ軍が保有する最高の戦車が、前線もしくはその近くに到着したようだ。
First photo of the M1A1 abrams in Ukraine, the exact model is not known. pic.twitter.com/Nxpnywt6yF
— 2S7 pion (trost) (@Trotes936897) November 6, 2023
米国はウクライナの戦争努力のためにM1を31両無償供与した。これは1個大隊分に相当する数である。とはいえ、M1がこの戦争のダイナミクスを根本的に変えることはないだろう。また、M1はロシア軍の戦車や砲、対戦車ミサイルそしてこれが最も重要だが、爆発物を積んだドローン(無人機)による攻撃に無敵というわけでもない。
戦闘に投入すれば、ウクライナ軍はおそらく多くのM1を失うことになるだろう。M1を動かすには、車長、操縦士、120mm滑空砲の装填(そうてん)手と砲手という計4人の乗員が必要になるが、乗員たちのなかには戦死者も出るだろう。
それでも、ウクライナ軍が運用するほかの西側製戦車での事例が参考になるとすれば、M1に乗り込む戦車兵の死者は、ウクライナ軍でなお大半(ロシア軍ではすべて)を占めるソ連式戦車の場合よりも格段に減るはずだ。
なぜなら、M1や北大西洋条約機構(NATO)軍の主力戦車としてそれと並び称されるドイツ製レオパルト2、英国製チャレンジャー2は、敵からの攻撃に対する防護を重視した設計になっているからだ。とくに重要なのは、弾薬が主に特別設計のコンパートメントに収納される点だ。
レオパルト2の場合、主砲の一体型の弾薬(砲弾と装薬)は2つのコンパートメントに収納される。1つは車体、もう1つは砲塔後部に取りつけられた「バスル」と呼ばれる張り出しにある。車体のコンパートメントは敵による狙いすました射撃に対して脆弱(ぜいじゃく)で、命中すると弾薬が誘爆するおそれがある。一方、バスルのほうは被弾すると外方向、つまり乗員がいる場所と反対方向に爆発するようになっている。
チャレンジャー2では、砲弾と装薬が別々になった分離型の弾薬が使用され、装薬は砲塔内の水で満たされた容器に収納されている。この水は、被弾時に装薬のクックオフ(火災や高熱での発火)を防ぐのに役立つ。
M1がユニークなのは、一体型の弾薬がすべて、ブローオフパネルつきの砲塔バスルに収納されるところだ。被弾して弾薬が誘爆しても、ブローオフパネルが吹き飛ぶことで圧力や火炎は外側に逃がされ、砲塔の前方にいる乗員たちは守られる。そのため、M1は世界で最も乗員の生存率が高い戦車になっている。
これらの戦車の設計とT-64、T-72、T-80、T-90といったソ連式戦車の設計を比べてみよう。先行する戦車と同じように小ぶりにするため、ソ連の技術者たちは人間の装填手に代えて、砲塔下部の回転式弾薬庫(カルーセル)から弾薬が補充される自動装填装置を採用した。ただ、弾薬はすべて、乗員がいる砲塔内にむき出しで置かれることになるので、被弾すると爆発しやすい。
ロシアがウクライナで拡大してから1年9カ月近く経つ戦争で、ロシア軍の戦車が「砲塔投げコンテスト」で競い合うというミームが生まれたのもそのためだ。ソ連時代に設計されたこれらの戦車に弾が直撃すると、砲塔がロケットのように上空に吹き飛ぶことが多い。中の乗員が爆発からもろに影響を受けるのはいうまでもない。